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3/16/2012

日本の自然管理について

日本は本当にめぐまれた国だと思います。
歴史、文化、自然、気候、そしてデモクラシー。
世界に誇れる国です。
ある外国の女性が外国のあちこちを訪問したが、日本が最高だったというのを聞いたことがあります。2005年から2008年にかけて、友人のおかげで、いままで知らなかった地方の名所・旧蹟・自然を訪問でき、なるほど、都会はどこも同じだが、日本の地方の自然も風土も文化もすばらしいと確認しました。

村田茂太郎 2012年3月16日

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日本の自然管理について


わたしはアメリカに住んでいる。テキサス・エルパソに約十二年、カリフォルニア・ロスアンジェレスに約二十五年。アメリカの自然を見慣れた眼で日本の自然をながめると、その違いは歴然として感じられる。

 最近、何度か日本を訪問し、そのたびに友人に手伝ってもらって、行きたいと思って一度も行ったことがない場所や何度も訪れている場所を訪れることが出来た。まだまだ、私にとって未知の、魅力をそそる場所がいっぱいあって、日本訪問がいつも楽しみである。

 両国の自然の最大の違いは、スケールのちがいというよりも、雨の多い日本国土のもつ森林と渓流の美しさが私にとっては一番印象的であった。どちらかというとアメリカのスケールに比べれば日本は箱庭的な自然といえる。なにしろ、カリフォルニアが同じような大きさで少し大きく、テキサスとなると日本の一.五倍以上の面積なのである。しかし、日本は自然、歴史、文化にめぐまれた、この地球上でも有数の魅力的な国である。江戸時代から昭和にいたる海外からの訪問者によれば、そうしたもののほかに日本人の人間的豊かさ、暖かさがなによりも魅力であったことが分かる。

 人間にとって、なんと言っても大事なものは水と緑の木々と大地である。日本の幾多の清流や湖そして海の美しさは誰もが感嘆するものであった。そして森林の美しさ。森林が雨をもたらし、雨が清流、渓谷をうんできた。アメリカの川のほとんどが濁流のようなものであるのを見慣れていると、日本の各地にある渓谷の水の清らかさに心をうたれる。

 わたしは大阪育ちで箕面市の箕面(みのお)渓谷は子供の頃から何度も親しんだ自然であった。コンラート・ローレンツによると、刷り込み(imprinting)はなにも鳥類にだけ起きる現象ではない。人間も幼少期に親しんだ自然を心に刷り込んで、おとなになってもそれを忘れることはない。

 箕面渓谷は駅から滝まで二キロメートルという距離的には比較的短いにもかかわらず、そして山は高くはないのに、深山幽谷の趣を呈して、自然の美しさとはこういうものだと、最初に親しんだ光景であった。最近の日本各地訪問で、この種の魅力的な自然はなにも箕面だけに限らない、日本国中にちらばって美しい森林と渓谷が存在しているのを確認し、わたしは日本という国はほんとうに恵まれた国だと感心し、うれしくなってきた。こういうすばらしい国は日本人だけ楽しむというのでなく、日本全体が世界文化遺産・世界自然遺産に属するものであると思う。ともかく、大都会ではなく、地方を訪れた私の感想はそういうものであった。田舎は文明化したとはいえ、昔からのよさをのこしているのがわかり、都会を見て絶望していたわたしに、まだまだ日本は捨てたものでないという印象をかきたててくれた。

 日本の地方にすばらしい自然と文化が残されているのと対照的に、大都会はなんとあわれな様子を示していることか。たとえば大阪をみたばあい、大阪市周辺では緑のある場所は大阪城周辺や天王寺公園その他限られている。大阪府でも緑が残されているのは、都会では、お寺・神社・古墳・それに類したところと限られている。大阪の高いビルのうえから眺めると緑がほとんど見当たらない。緑を必要とする人間は鉢植えの植物で身の回りをかざるほかない。

 この都会における樹木の緑の無さこそ、私に一番日本の都会に対して危機意識を抱かせるものである。そして、手遅れにならないうちにもっと自然を増やすようにしないといけないという気持ちが強く湧き上がる。地方都市は大都会をみならわないで、独自の文化と自然を大切にし、後世の人間が同じような美しい自然と文化と歴史を楽しめるように努力と工夫を重ねなければならない。

 最近、京都大学のカール・ベッカー博士の講演を聞く機会があった。博士は日本の宗教や先祖崇拝などを見直して、東洋思想の持つ独自のよさを世界に広く知らせる努力をしておられる。その博士が沢山の日本人にあって老後の希望をしらべたところ、自然に近いところに住み、自然とともに生きたいということであった。その希望を満たすような身近な自然を都会で求めるとなると、お寺・神社しか残っていないというのが現実で、今、お寺を共同生活の原点として再生させる動きが広まっているとベッカー博士はいわれたが、それはわたしの印象――都会の自然は寺・神社・古墳のあるあたりだけ――を確認してくれた。日本の自然は大切に保存しなければならない。

2010年9月11日 村田茂太郎

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