Translate 翻訳

3/27/2012

“回想のアリゾナ ビッグ・レイク”



“回想のアリゾナ ビッグ・レイク”                                                           村田茂太郎

 アリゾナの大自然といえば、人が思い起こすのは、いまでもなくグランド・キャニオンであり、いくつもの西部劇で有名になったモニュメント・バレーであろう(モニュメント・バレーはユタ州と共有する形でアリゾナの東北部に広がっている)。どちらかといえば、ドライで森林に乏しく、サボテンが乾いた地形をいろどっている光景である。

 しかし、アリゾナは変化に富んだ地形、自然、歴史、文化をもち、きわめて興味のある州である。それは、インディアンの歴史と、スペイン・メキシコ移民の歴史と、西部開拓の歴史をもち、アリゾナのどこも興味深い。地形的、気象的にも多様であり、有名な砂漠性からツンドラ帯までがアリゾナにある。アリゾナのイメージで、ひとは、普通、ドライな不毛の地、砂漠的なものを抱きがちであり、私もその例外ではなかった。有名なサボテン Saguaro Cactus サワロ は西部劇の映画には無くてはならないものであった。

 しかし、アリゾナには、3850メートルの、富士山よりも高い山が、アリゾナの中央部首都フェニックスPhoenixから北に2時間ドライブの距離にある、海抜2000メートルの街フラッグスタッフFlagstaffにそびえており(San Francisco Peaks)、中東部には、アパッチ・シットグリーブス国有林が広がっている。そこは、広大な緑のPonderosa Pine林が繁り、森と湖と清流、丘と高原と高山の魅力にあふれている地域である。5月でも平地で雪が残っていたりするほどで、スキー場もあり、マギヨン・リム(Mogollon Rim)と呼ばれるCamp Verde から Show Low へ至るコロラド高原(Colorado Plateau)のふちHedgeにあたる断崖周辺には、みごとなPonderosa Pine の原生林がつらなって、ため息をつかせるほど、美しい緑の森林をみせている。

 エルパソから私が好んで旅をしたのは、この一帯、Springerville Volcanic Fieldと呼ばれる地域である。それは、Springerville (海抜約2100メートル)という街とShow Low (海抜約1900メートル)という、それなりに大きな街、そしてAlpine (海抜約2400メートル)という街の三角地帯であって、Springerville自体はVolcanic Field らしく、火山活動の跡を示す地形に囲まれて存在するのに対し、Show LowAlpineは森林地帯であり、その植生的な差異はあきらかであるが、三角地帯に広がる高原と湖自体、火山活動の跡を示している。

 Big Lake と呼ばれる火山性の湖は、それ自体、Bigというほどではないが、あたりにちらばるほかの湖に比べると最大であり、Big Lake といえば、それで通じるほど有名なNational Recreation Area となっている。海抜は2600メートル以上であり、まわりは、広大な原野のような、高原のような地域と、針葉樹林帯がとりまき、変化に富んだ地形を示している。

 付近はWhite Mountainsといわれる名称が示すように、雪をかぶるアリゾナ第二の高山 Mount Baldy (約3500メートル)があり、スキー場もある。Show Low から Big Lakeにいたる途中に Pinetop-Lakesideという街(リゾート)Hon Dah というインディアン カジノ があり、美しいPonderosa Pineの森林が広がっている。松林は密生することなく、ある間隔をおいてひろがっているので、さわやかな感じがし、心地よい。特にPinetopは夏の避暑地として有名で、ロッジやキャンプ場、リゾート ハウス、宿泊施設、ギフト ショップでにぎわっている。

 Hon Dah はインディアン カジノ で有名で、Outdoor Sports で有名なこの地域にきた客で、ほかの娯楽施設に物足りない人に、格好の遊び場を提供している。

 Big LakePine林を過ぎて、丘と草原と湖が点在する約2700メートルの地点にあり、付近には Horse Shoe Lake, Crescent Lake, Mexican Hay Lake その他がちらばっていて、時節によっては雨量、降雪次第で、高原のくぼみに水がたまって新たな湖のような光景を呈しているところもあれば、逆に、大きな鱒Troutがとれたいうこともあって、必ず紹介されている有名なMexican Hay Lake のように、Lakeであったはずが、何年も見慣れているうちに、いつのまにか、水がなくなって、まさに生物学で学ぶ“遷移”の現象を目撃することもある。まわりのHay(葦)が繁って、雨不足がたたり、乾燥化がすすんで、湖から、沼地、湿地帯、草原と変化していくのを、私は何度もこの一帯をおとずれているうちに、目撃して、当然とは言いながら哀しい思いを抱かされた。そのあと、雨のあと、表面に少し、水がたまっていたが、いったん、ドライになってしまえば、そこに生きていたTroutをはじめ、様々な水生生物は死滅したであろう。なんとなく、物悲しくなる遷移現象であった。

 Big Lake は付近では、最大のLakeで、開けた高原の中にひろがっていて、背景にはMount Baldyを主峰とする White Mountainsの連嶺がつらなっているのが望まれる。湖がすでに海抜2700メートル前後の地点にあるので、アリゾナ第二の高峰といっても、この湖面からは700-800メートル伸び上がった程度の連嶺なので、ちょうど大阪の都心から生駒連峰を眺めるような感じである。

 湖のまわりは凝結した黒い溶岩が覆っていて、この湖が火山性である事を物語っている。Trout Fishingで有名らしく、貸しボートもあり、まわりにはキャンプ場もあって、夏場は比較的にぎわっている。付近にある草原は、雨季のあとは、緑できれいにおおわれているが、大概はドライで枯れた高原という模様を呈している。そして、そうした丘の間を走る一本のドライブ ウエーには、しばしば放牧の牛が何頭もうろついている姿を遠くからも目撃でき、その場までくると、ときには、道を横切るのを待たねばならないが、これが、いよいよ牧歌的な感じをあおりたてることになる。完全な放牧で、牛は自由にのんびりとたむろしているのである。

 あるとき、私は道端に鷹が羽根を広げた像が新しく建てられたのかと思ったことがある。クルマがときたま通る程度の、早朝の、野中の一本道といった道路をゆっくりとドライブしていて、クルマで通り過ぎてから、おかしいと思い直し、U-turnして、戻って、よく見ると、鷹は鷹だが、ホンモノで、道端の杭にとまっているのであった。さらに、付近を見ると、10羽を超えるRed Tailed Hawk 鷹 が道からほんの少し離れた草原に散らばって、羽を広げているのであった。私は、そうか、昨日、雷雨で、雨に打たれた鷹たちは、羽を乾かさねばならず、こうしてみんないっせいに、かたまって日光浴をし、羽を乾かせているのだと気がついたのであった。この、Hawkにかぎらず、この辺り一帯は Elk に注意とのサインが路上に沢山表示されていて、私は早朝のドライブの途中、何頭かを見かけたし、あるとき、テント キャンプをしていて、夕方、草原の向こうのほうに一群のElkを認めたと思っていたら、夜中に、テントの間際までえさを求めて来ているのに気がついた。

 湖のまわりには高山植物が繁り、秋にはアスペンAspenが黄色く色づく。樹木の緑、青空、白い雲、みずうみの色、草原、そして黒ずんだ岩石、湖の周りに広がる広大な空間、主峰Baldy を抱く連山、すべてが、なんと心地よく感じられることか。さわやかな大気。野生動物の臨在。心を和ませる自然のNaturalな美がここにある。この美は、いわゆるヨセミテやイエローストーンに見られる、MagnificentとかMajesticとかといった絵葉書的な美ではない。自然な、調和した、心の休まる美しさである。

 ドライなエルパソは、それで魅力を備えているが、この Big Lake 一帯の自然は、心に安らぎを与えてくれる。Big Lake周辺は道路も舗装はしていないところが多い、最初、ドライブがむつかしく、舗装してくれればよいのにと思っていたが、今では、これがこの地の自然保護のひつのあり方なのだとわかった。舗装道路でなければスピードもあまりだせないし、降った雨が地下水系にうまく浸透するわけで、昔のままの自然保護が可能なのである。

 あるとき、Alpineの方面から、このBig Lake付近にはいったとき、まず、森林道への入り口に、Mexican Gray Wolf を試験的に放った保護地域であるというサインを見た。そのあと、しばらくして、人家もない森林へのドライブの途中、最初、犬が3匹ほど、つらなって横切ったと思ったが、考え直してみると、まるで自然な様子で、道を横切って森の中に入っていく何匹かの子犬というのも、ありえないと気がついた。母親と子供の狼Mexican Gray Wolf が道を横切るのを目撃したのだった、と今では思っている。

 私がBig Lake Area 探訪の拠点としたのが、あるときはShow Low であり、あるときは Pinetopであったが、最後の頃は、PinetopMotel “Super8 ”にとまるのが決まりになった。理由は、もちろんBig Lakeが近くなることであるが、ほかに大事な理由として Hon Dah のインディアン カジノが近いこと、そして近くに Christmas Tree というかわいいレストランがあることであった。このレストランは室内のインテリア デコレーション をクリスマス ツリー関係で統一しており、いつ行ってもクリスマス ツリーがレストランの中を一面に飾ってあるのであった。レストランは一軒家を全体の体型はそのままで、客をいれられるようにRemodelしたわけで、こまごまとした部屋に入るようなもので、それがこの装飾と合って、すこぶる暖かい、家庭的なムードをかきたてるのであった。従って、私は友人と訪れたときも、このChristmas Tree Restaurantを紹介し、ひとりのときも、ここを利用するようになった。ここを愛好するという作家の推薦が Chicken Dumpling であったので、私は好んでそれをオーダーするようになった。従って、思い出すのも、チキン ダンプリングであり、やはり、ここで食事をしたいという思いがつよい。

 2005年3月25日、金曜日、 Good Fridayの休みを利用して、私は、このPinetop方面への旅行を思い立ち、エルパソを出発した。ニューメキシコのMagdalenaを過ぎ、電波天文台で有名な地域を過ぎて、Datil を通る頃、雪が降り始めた。雪のPinetopを訪れたいと思ったことはあったが、雪ではドライブが危険なので、実現したことはなかったが、今回、雪になり、路上にたまり始めると、危険を感じ始め、引き返そうかと思ったが、クルマがFord Explorer の All Wheel Drive であり、この種のクルマは、慎重にドライブする限りは、雪でも大丈夫と知っていたので、引き続いて走り続けた。雪はやんだりふったりしたが、Show Lowを過ぎる頃には、本当の雪景色が実現してきた。

 いつもの Super 8 にチェックインをすると、まず、Christmas Tree Restaurantへゆき、Chicken Dumplingをオーダーした。レストランの周りには雪がつもりはじめていて、私はうれしくなってきた。食事を済ませると、今度はHon Dahに向かい、しばらくSlot Machine に興じることにした。少しのカネで気分転換になるので、私はしばらくエンジョイしてから、外に出てびっくりした。雪が深く積もって、カジノの客の中には、クルマが4 Wheelでないために、動けなくなっているのがあった。私はWindshieldの雪を払い、無事、慎重な運転でモーテルに戻ることが出来た。翌朝、あたり一面、銀世界で、私の希望がかなえられたようなものであった。雪のドライブが心配であったが、モーテル客の中には、もっと寒い雪国からの人も居て、こんなのはスグに溶けるから心配ないとのことであった。私は夜も朝も雪景色を沢山写真に撮り、今回の旅行のために、前日、Digital Camera を買ったのは正解であったと、満足しながら、写真を撮りまくった。Pinetopをでて、今回は雪で危険なので、Big Lakeは省略し、Fort Apache経由、Globeに向かい、Apache Junctionから 有名なApache Trailを走ることにした。雪のPinetopとは正反対、南国のようなGlobe, Apache Junction, Apache Trailであった。Poppyの花盛りで、まさにアリゾナらしいと思い、その驚くべき多様さをうれしく味わった。ともかく、アリゾナで私がもう一度、おとずれたいと思うところは、この変化に富んだ自然に囲まれたBig Lake 一帯 なのである。
(完)2008年12月31日 執筆、1月1日補筆。 村田茂太郎




















No comments:

Post a Comment