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3/20/2012

一字の漢字・まとめ

中学1年生の国語の時間は本当に楽しい時間でありました。
これを見ていると、いろいろな思い出があざやかに蘇ってきます。
日本語の漢字に込められた思いを、文化を、歴史を、いろいろ考えさせてくれます。
漢字と仮名表記をふくんだ日本語は本当にすばらしい言語だと思います。

村田茂太郎 2012年3月20日

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一字の漢字・まとめ

 私は中学一年生の国語の最初の時間には、必ず、“一字の漢字”をていねいに書いてもらう事にしている。これは、私自身にとっての楽しみのためであるが、生徒諸君に漢字というものに対する興味と愛着をもってもらいたいためである。
 漢字には、アルファベットにはない、すばらしい魅力がある。それは、内容と形式とを兼ね備えた美しさを持っている。それは、仮名の起源でもあり、書道の核心を形作っている。一字一字の漢字には無限の思い、ひとつの宇宙がこめられていると言ってもいいすぎではない。仮名と漢字を併せ持った“日本語”は、世界でも最も美しく、すばらしい言語のひとつといえる。

 今日ここで、諸君に書いてもらう漢字。それは、諸君の最も好きな、最も大事な字でなければならない。今、真剣に考えて書いたその字を、一生覚えているくらいに、真剣に、誠実に、えらんで書かねばならない。そうすることによって、諸君は、ふだん何気なくつきあってきた漢字の持つ美しさ、すばらしさ、不思議さ、魅力を再発見するであろう。

 また、今後の学習の出発点を自分で確立することが出来るかもしれないし、人生そのものに対する姿勢を確立できるかもしれない。字は個性を表わす。下手でもよいが、出来るだけていねいに、そして正確に書こう。参考までに、いくつかをあげておく。ここにない字を書いても良い。

真、善、美、誠、忍、幸、福、徳、富、和、命、生、友、明、戦、遊、愛、知、学、克、寛、情、哲、豊、楽、哀、人、勇、恵、旅、金、力、魂、勝、運、天、地、海、空、父、母、祈、文、疑、朝、昼、夜、静、動、春、夏、秋、冬、読、書、言、聞、教、輝、喜、苦、笑、願、水、火、信、円、朗、政、徹、貫、涙、英、明、我、時、栄                               など。

                                               
 私が十二歳の時に、京都のあるお寺を訪れた。十三参りとかで有名な寺だったらしく、そこの僧侶から、好きな字を一字書けと、筆と紙を渡された。しばらく考えてから、私はていねいに一字を書いた。お寺では、毎朝仏壇で唱えるとためになるとかという経文をくれたので、しばらくの間、スグに全部暗記して、毎朝、唱えていたが、そのうちにやめてしまい、忘れてしまった。しかし、この一字のほうは、今でもハッキリ覚えている。どんなにつまらないようなことでも、真剣に考え、真剣にとりくんだものは、一生覚えているという一つの証明のようなものである。

私は十二歳の時に訪れたお寺で、“学”という字を書いた。“学問”の“学”、“学ぶ”の“学”である。私がこういう字を書くほど、学問がすきであったのか、こういう字を書いてしまったために学問が好きになったのか、私の半生は、学問の探求、或いは自己の哲学の探求という形で過ごしてきてしまった。今だったら、私はどんな字をえらぶだろうと自分に問いただしてみる。誰か、“笑”を書いていた人がいたが、すばらしい感性を持っていると思う。私もあの当時、“笑”を択べるほどであったらと思う。“忍”という字も好きだ。当時の私に、“愛”など、思い浮かばなかったのはたしかだ。
 
 

かつて、“信”を書いた生徒は、それに関して、すばらしい作文を書いてくれた。幕末の新撰組が択んだ字は“誠”であった。“和”といえば聖徳太子が、“心”といえば夏目漱石が、“母”といえば、ゴーリキーの小説が浮かんでくる。漢字一字とはいえ、過去の歴史と文化、そして個人の思い出が豊富につまっているわけである。
 
 

このように、漢字一字を択ぶだけでも、その人の、そのときの関心や姿勢や性格が表わされているようで、とても興味深い。すべての人間は知情意の三つの面を備えており、人それぞれ、そのどれかが強調されていたりして、個性の違いが現れ、人生を複雑で、興趣豊かなものに仕立てているが、その時点で、何を選ぶかという点にも、その違いがあらわれて面白い。
 漢字は一字一字が、それぞれ計り知れないほど、深い意味を秘めている。それは、形式と内容だけでなく、歴史も秘めており、無限の面白さを含んでいる。漢字には、アルファベットに無い個性があり、漢和辞典で調べ始めると、時間の経つのも忘れるほど興味深いものである。

 私は、諸君が、これを機会に、辞典を活用して、漢字の持つ意味と歴史・文化、その面白さ、深さを更に追求していってくれることを切に願っている。

(1983年―1993年)


まとめ 〔クラスの生徒の書いた一字〕七年分


勝3、信2、美2、友2、忍2、笑、誠、克、情、英、輝、宇 (旧中一の二)


愛、福、幸、勇、善、希、魂、哲、文、遊、海、絵、暖、休、我、由、議(中一の三)


愛3、生2、友2、楽2、和、清、喜、静、豊、鎖 (中一の一)


楽3、生2、誠、笑、忍、希、愛、春、寒、貫、富、信、命、水、心、友、涙、空 〔中一の一〕


忍2、円2、誠、紅、恵、優、美、勝、福、富、和 〔中二の一〕


生2、美2、心、動、静、絵、金、英、人、聡、健、水、貴、数、陽、龍、鸞、犬(小六)


明2、美、友、愛、幸、忍、家、人、福、命、光、風、恵、治、浜、喜、夏、犬、能、誕、八、ナシ4 〔中一の一〕

 おわり 村田茂太郎

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