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2/26/2012

“Dinosaur 恐竜の話”

 1988年、Dr. Robert Bakker の恐竜に関する本を読んで、驚き、感銘を受けてすぐに子供たちに教えてあげようと思って書いた文章で、当時は、わたしはまだ理科は担当していなかったのですが、わたしは自分が読んだり、見たり聞いたりして興味あるもので、子供たちも理解できると思ったものは、教科と関係なく教えようとしました。私の扱うテーマがさまざまであるのは、そういう私の姿勢から生まれたものです。

今では、恐竜は温血動物で鳥の直接の祖先であるという説は異端ではなく、正当になっているはずです。

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 恐竜は今まで誤解されてきた。“爬虫類の仲間であり、従って、冷血動物(変温動物)である。大きくなりすぎて環境に適応できず、絶滅した。ほとんどの恐竜は水の中または水際で生活していた。”といった考え方である。

 Robert Bakker Ph.D.の“The Dinosaur Heresies” 恐竜異端説 という本を読むと、今まで、定説と信じられてきた考え方が、いかにアイマイな資料の上に構築され、しかも、誰もそれを疑ってみようとしなかったかがよくわかる。この本は既に確立されたような学説でも、より徹底した研究で崩壊されることがあることを明白に示しており、学問的探求という面から見ても、示唆的で面白い本である。学問の進展のためには、いわゆる通説と信じられているものを疑ってかかり、自分の力で、俗説にとらわれないで、科学的な資料と方法をもとに、堅実に理論を組み立てていくことが、いかに大切かを教えてくれる、すばらしい本であり、広く読まれ、紹介されるべき本である。日本語への翻訳が早く進められることを強く望ませる内容を持った、非常にすばらしい本である。(1988年現在)。

 では、新しい恐竜像とは、どのようなものであるのか。1億3千万年もの長い間、地球を支配できたということは、恐竜がバカデカクなった出来損ないではなかったことを意味する。それどころか、高度の新陳代謝を行う、恒温=温血動物で、かなり敏速に行動していたことが、骨格の研究や骨の中の血管の構造の解明からわかった。そして、単に、鳥に似ていただけでなく、実は鳥の直接の祖先であったのであり、そのことは、骨格の構造や砂嚢の発見で確認された。さらに、中生代にどんどん進化していったことも知られている。恐竜が支配していた間は、ネコよりも大きいサイズの哺乳類は出現することが出来なかった。彼らは主に、植物を食べて生活していた。そして、50フィートの高さ(15メートル)以下の木は、ほとんど食べつくされ、全盛を誇っていたシダ植物も一掃されかかった。そして、結果的に、花の咲く被子植物全盛の新生代(現在もそうであるが)が生まれるに至った。なぜなら、シダや裸子植物のように、限られた場所で授精し、生長していたのでは、恐竜の食べつくすスピードに間に合わないからである。早く広がり、早く生長し、早く授精・発芽するものとして、花の咲く植物は地球に広がり始めた。シダと裸子植物が繁っていた間は、被子植物に発展のチャンスがなかったが、恐竜が食べつくしてくれたおかげで、太陽が良く照り、敏速に生長できる機会が生まれたわけである。つまり、現在、地球上を支配している花の咲く植物は、恐竜が生み落としてくれたようなものである。

 では、どのようにして恐竜は絶滅したのか。恐竜の子孫が鳥になったとしても、恐竜自身が絶滅したのは確かである。そして、絶滅の原因として、様々なものがあげられた。しかし、化石が語っているのは、一挙に絶滅したのではなく、何百万年、何千万年もかかって、徐々に死に絶えていったということである。従って、巨大な隕石が落下したためとか、新星が爆発したためとか、いくつもの火山が爆発したためとかといった説明のすべてが、不充分な解答しか与えないことになる。そして、Dr. Bakker は、論理的に、絶滅の理由を推理しようとする。この原因にあたるものは、陸でも海でも殺し、大きな進化の早い陸上動物に大打撃を与えた。陸上の小さな動物の被害は比較的少なく、ワニのような大きな冷血の爬虫類は全然、死ななかった。植物よりも、植物を食べる動物にもっとも大きな被害を与えた。水にすむ動物にも全然、被害を与えなかった。この原因に当たるものは何か。結局、進化の激しい巨大な温血動物が一番の被害を受け、絶滅に至った。冷血動物と違い、温血動物はHigh Metabolismを維持するために、絶えず栄養の補給を必要とする。従って、食物を追い求めねばならず、それだけ、災難に遭う機会も多く、生存が厳しいことになる。Dr. Bakker は、この原因とは、大陸移動と同時に、大規模に移動が始まった動物達がもたらした、病原菌による流行病ではなかったかと推察する。

 丁度、ヨーロッパ中世で、黒死病(ペスト)が、全土を蔽い、人口が三分の一になったといわれるように、免疫のない風土に侵入した病原体が恐竜に大打撃を与え、徐々に、死滅していくことになったのではないかというのである。しかし、もし、恐竜が1年や10年、或いは100年程度の間に絶滅したのではなく、1千万年や1億年かかって、徐々に死滅していったことを化石が示しているとすれば、我々は現在、絶滅に瀕している各種の動物や化石から、いわゆる原因なるものは、それほど劇的な、突然の理由などではなく、子孫がだんだんと育ちにくい状況になっていったから、ということで理解しうるのである。たとえば、病気で弱った恐竜から生まれた子孫は、それだけ外界不適応な構造を備えていたはずである。

 1億3千万年というのは、しかし、人類的規模から考えれば、巨大な長さである。人類はサル的なものの進化からみて、たかだか、4-5百万年しか、生き続けていない。そして、我々は水爆や核兵器そして、恐ろしい公害で、はたして、あと何百年人類が生き続けていられるのか、わからない時点に来ている。1億3千万年もの長い間、恐竜は様々な形と重さをとって、進化しつづけ、地球を支配し続けた。もし、恐竜が死滅してくれなかったら、哺乳類は依然として、ネコ以上のサイズになれず、人類もうまれていなかったことは確かである。

 19世紀にはじめて、恐竜の化石が発見されたとき、誰も鳥の祖先であることを疑わなかった。1925年Gerhard Heilmannが“鳥の起源”という本を発表してから、1960年を過ぎるまで、Heilmannの説が世界を支配し、恐竜は冷血の爬虫類として、おとしめられることになった。1950年以降の古生物学や解剖学、分類学、生態学、遺伝学の進展が、はじめて、もう一度、恐竜を見直させることになり、つい最近になって、恐竜は爬虫類ではなく、恐竜類Dinosaurという温血動物であり、鳥の祖先であることがわかってきたということである。

(完) 1988年11月2日 執筆

村田茂太郎 2012年2月26日

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