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10/06/2012

Tony Hillerman 〔トニー・ヒラーマン) を読む


Tony Hillerman 〔トニー・ヒラーマン)を読む

 Wikipedia情報によると、Tony Hillerman (トニー・ヒラーマン)1925年生まれで2008年に83歳で亡くなった。わたしは彼が亡くなったという情報を当時ニュースで知ったが、特になんとも思わなかった。無知であるということは、本当に恥知らずなものだと思う。

 HillermanSouthwestでも特にNavajo Indianのテリトリーを扱った探偵小説(刑事小説)で有名で、Edgar Awardを受けたり、アメリカ探偵作家協会の会長を務めたり、New Mexico の大学でJournalismの講座をもったりと、充実した人生を送ったようである。New Mexicoの Albuquerqueアルバカーキーで亡くなった。

 わたしは彼のNavajo Indian Tribal PoliceLieutenant Joe Leaphornを主人公とした刑事小説を10冊近く所持していたが、一冊も読んでいなかった。一番最初の本を読み始めて、ややこしい ナバホ・インディアンの風習に関するやり取りが最初にでてきて、どうでもよいと思い、いつも読み始めるなり中断していた。

 我が友デボラー・ボエームさんの強いおすすめで、今度は覚悟を決めてとりかかり、はじめのその面倒なやりとりを過ぎると、話の展開はおもしろくなり、またたくまに読了でき、同じ要領で、手元にあったNavajo Indian Detectiveもの7冊を10日ほどのうちに全部読み終えた。デボラーさんのいうとおり、わたしは充分楽しめた。

 デボラーさんは、私が大好きであったが一度も訪ねる勇気も持たなかったロス・マクドナルド(Ross Macdonald)と直接会ったことがあるという。デボラーさん自身、大江健三郎の英訳者(”Changeling”-「取り替え子」)であるだけでなく、SFやホラーを創作・出版し、雑誌の編集長などを経た経歴からして、有名な作家と出会う機会も多かったに違いない。羨ましい限りである。

 そして、Tony Hillermanを読んで、いろいろな興味を引き起こされた。Indianといっても、アメリカ全土に分布していたわけで、それぞれの部族に習俗の大変な違いがあって当然なのだが、そんなことも、読むまでは気がつかなかった。彼が主に扱っているのはNavajo Indian Policeの話なので、Territoryはいわゆるアメリカ南西部でも特にFour Cornersといわれる Monument Valleyを中心に, Canyon de  Chellyのある Chinle, Ganado, Window Rock,  New MexicoGallup, Shiprock,  Aztec,  FarmingtonColoradoCortez,  DurangoArizona, Utah BorderGlen Canyon DamLake Powell 周辺ということになるが、話の展開によってはNew YorkWashington D.C.が影響してきたりする。

 物語は、なにもIndianの習俗をめぐる殺人事件だけでなく、国際テロや過去のIndian虐殺事件(Wounded Kneeなど)と関連したものなど、いろいろ面白い展開がなされている。考古学的な発掘などをめぐる殺人事件も発生したり、いわゆる金鉱などの発掘をめぐる殺人事件、あるいはカジノをおそった無法者を追跡する話など、なかなか興味深いし、話の展開が心理的な深みを持って展開されている。

 インディアンといえども、StanfordHarvardを卒業して弁護士になったりしている人間も居るわけで、そういうひとたちが故郷のNavajoをなつかしがったり、結局、都会の人間や環境に適応できず、故郷にかえる話など、いろいろと教えられることが多い。

 Hillermanのこのインディアンの習俗や風習、信仰その他の情報はAuthenticといわれており、ホンモノの知識がつめこまれているというので、これを手がかりにインディアンのことをもっと知りたいという気を起こさせるほど、なかなか興味深い物語が展開されている。

 特に同じSouthwestIndianでもNavajoZuni, Mescalero Apache, UtePuebloなどみな風俗慣習が異なるわけで、素人にはややこしいが、Hillermanを読むといっぱい興味が湧いてくる。

 カール・ユングCarl Gustav Jungの回想録〔Memories, Dreams, Reflections〕によると、アメリカを訪問したとき、ユングはプエブロ・インディアンの話を聞いて、大変感銘を受けたという大事な話が載っていて、わたしは拙著「寺子屋的教育志向の中から」の、ユングの自伝(回想録)紹介文のなかで特に取り上げて展開したが、このHillermanの本を読んでいると、たしかにインディアンの習俗・宗教・信仰のなかに、神聖なものが残され、伝わっているようで、もっと勉強しなければならないなあと感じさせる。

 私はHillermanの本で、はじめて、南北戦争の頃、1863年ごろ、President Lincolnがアメリカのインディアンの代表種族19(?)のリーダーに金Goldの握りをもった杖を贈呈したということを知った。中立を保って欲しいという願いであったそうである。それは酋長から酋長へと譲り渡されていったが、なかには盗まれて紛失というケースもあるとか。

私が読んだTony Hillermanの本は

 The Blessing Way 第1

 Dance Hall of the Dead 第2作

 Listening Woman 第3作

 Talking God 8冊目?

 Sacred Clowns 10冊目?

 Hunting Badgers 13冊目?

 The Wailing Wind 14冊目?

7冊で、あと Sinister Pig 〔15冊目?〕というHardcoverを持っているが、Storageにいれてしまって、なかなか見つからない。まだ、このIndian Policeの探偵小説は、わたしの読んでいないものだけでも10冊ほどあるようで、まだまだ読む楽しみが残っている。

  Hillermanを読む楽しみの一つは、扱う舞台がアメリカ南西部、Monument Valleyやその周辺ということで、西部劇の作家Zane Greyを読んで楽しめたように、アリゾナやユタ南部、ニューメキシコの自然がみごとに描出されていることで、わたしはZane Greyを楽しんだと同じように、自然描写を楽しむことが出来た。アリゾナとユタのBorderColorado Plateauとよばれる岩の塊が展開する大高原であるが、ソコを舞台に演じられる追跡や逃亡は、とても面白い。Zane Greyの初期の西部劇“The Heritage of the Desert  ” (1910) など羊が水を求めて何百頭も岸壁から墜落死していく場面がでてくるが、ものすごいと思うと同時に、ありうる話だとおもったものであった。

 Hillermanを、まだエルパソに住んでいた頃読んでいたら、わたしのアメリカ南西部の旅ももっと興味深い、味わい深いものになったであろうと、わたしは自分の怠惰を今になって後悔する。Hillermanの本に展開された情報を持ってFour Corners周辺を訪ねれば、もっと素晴らしい旅になったのは確かである。そして、彼が2008年に亡くなるまで、Albuquerqueに住んでいたということであれば、頻繁にアルバカーキ-を訪れた私には訪問のチャンスもあったであろうにと、今になって、失くした機会を残念に思う。

たとえば、ニューメキシコのGallupにわたしは泊まったことがあるが、その辺はインディアンのPowwow で有名ときいてはいたが、アメリカのMilitary 関係の飛行機や武器弾薬の保管所として有名であったことなど全く知らなかった。鉄道が走っていたことには気がついたが、それがMilitary関係の必要から生まれたことなど知らなかった。そこが、米ソ対立緩和のなかで、兵器庫としてすてられたようになっているということなども初めて学んだ。

わたしが好きな本はエドガー賞を受けた第二作目“Dance Hall of the Dead”〔1973年〕であるが、”Wailing Wind”や“Hunting Badger”なども、話の展開がとても興味深い。中心人物であるナバホの刑事Lieutenant Leaphornは論理的な名探偵であるが、いつもほとんど殺されかかるほど危うい状況に陥る。

たとえば、第二作目に出てくる、魅力あるヒッピー風の女性SusanneLeaphornをヘルプしなければ、ほとんど殺されていたにちがいないというような危ない状況に陥ったりする。このSusanneは、わたしには源氏物語の“花散里”のイメージが浮かび上がるほど、私にとっては魅力ある女性として描かれている。そして、最後はヒッピー風にどこかへ消えていくのもなんとなく気になる。Ross Macdonaldの初期の名作“Blue City”の最後は、NaïveProstitute(?)であった女性Carla(丁度、「罪と罰」のソーニャのような)が襲われ意識不明の状態で病院にいると聞いた主人公Johnny Weatherは、個室にいれて特別に看護婦をつけて面倒見てやってくれと頼み、縁故のものRelativeでないとそんなことはできないといわれて、”I’m going to marry her, see?” I hung up. というところがある。わたしはこの種のHappy Endingが好きである。その点、“Dance Hall of the Dead”は、ある部分は、わたしにとってはPendingのまま終わるのが少し気に入らないが、まあ、印象的な物語で、エドガー・アラン・ポー賞を受賞した価値はある。

Tony HillermanのナバホもののPaperback版の表紙はインディアンのアートのイメージをしつらえた魅力的な体裁になっているのも好ましい。

 ともかく、まだ10冊ほど、このシリーズの本が残っているというのは、私にとっては楽しみである。

村田茂太郎 2012105日、6

 

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