2009年、どこかのエッセイ・コンテストに出そうかと思って書いた文章です。どこにも送りませんでした。すでにブログで Sasha とか Hana、Eureka について、記述してありますが、書いてない情報もあるので、そのままブログで公開させていただきます。写真を少し添付します。
村田茂太郎 2012年4月14日
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アメリカで飼う犬と猫
はじめてウエスト・ロスアンジェレスのアパートに住んだころ、私たちが魚を食べていたからか、真っ白で人懐っこい猫がアパートに来るようになった。そのうち、部屋の中まで恐がらずに入ってくるようになり、どう思ったのか、泊まっていくようなこともあった。あとで、自分で猫を飼ってみて、家族である猫が外泊したりして帰ってこないことがどんなに私たちを不安にさせるか身にしみてわかるようになったが、その頃は、どこかの飼い猫が私たちとの付き合いを楽しんでいるというだけで満足していた。私たちの与える食べ物を沢山食べるわけだから、飼い主の家に帰ってもあまり食べなくなり、どこかで食事をもらっていると不安に感じたのであろう、ある日、同じ猫のくび輪に、Please
do not feed me. “食べさせないで”というTagがはさんであった。わたしたちは飼い主を心配させたことに気がつき、あまりその猫と親しまないようにした。
そんなある日、家内がクルマから猫を放り出す場面を目撃した。アパートのまえの道路であり、アパートがあるから、猫はどこかで飼ってもらえると思ったのであろう、捨てていったのである。そして、その猫の蚤とりの白いくび輪にTagが貼ってあった。この前と逆で、”My name is Sasha. Please
feed me.” “名前はサーシャ。食べさせてね。”とあったので、確実に捨てられた猫であることがわかった。猫は毛の短い、Russian Blue という系統らしいと、あとで本で調べてわかったが、きれいな猫であった。その日から私たちのアパートで飼い猫となったが、年齢は2歳ほど。当初は野獣のようで、わたしは手足が引っかき傷だらけになった。あるときソファーに座っていると、何を思ったのか、いきなり猛獣が身構えて、獲物に襲い掛かる恰好でわたしの足にかぶりついてきた。理由があるのだろうと、わたしは叱らなかった。あるときはキチンで大きな音がしただけで、ものすごく飛び上がり、目が据わったようになって、しばらくは動かなかった。こんな反応振りから、わたしたちは乱暴な子供の居る家に飼われていて、一見、凶暴な反応をし、やむなく捨てられたのであろうと推察した。
時々、凶暴性を発揮したが、猫は徐々におとなしくなり、結局、私達は17年間付き合うことになった。サーシャという名前だからユダヤ人にかわれていたものらしい。名前は変えず、そのまま、最後までつきあった。猫は家になつくといわれていたから、アパートから一軒家に引越しをするときは、事前になんども一緒にクルマで運び、新しい家になれさせた。そして無事に引越しを済ませ、新居にも慣れ親しむことになった。
今度は犬を飼おうということになり、家内がFarmers Marketで子犬が捨てられているのを見つけた。わたしが経験から、犬はメスが飼い易いよと言っていたため、捨てられていた四匹の犬の一匹だけがメスであったので、それが我が家にくることになった。猫は既に四歳ほど、犬はうまれて一週間ほどであったため、牡猫であるにもかかわらず、時には子犬の面倒を見るようなかわいがりかたで、仲良く育つことになった。そんな犬猫であったが、年にはかてず、結局それぞれ19歳、17歳ほどでなくなった。
そのほかにも犬がいたが、最後に亡くなったのはやはり17歳ほどのBearded CollieというHerding Dog で、これは血統上、羊を追う習性がうまれつきついているのか、犬を追いかけて、その犬の前に行って走っているのを留めようとする性癖があった。わたしがDog Parkで一緒に走っても、横を並んで走らないで、走っている私の前に出てくるので、あるときには躓いてころんだりした。いつまでも、そういう習性を失わないで年をとっていった。
この最後の犬がなくなる一年ほど前から、野良猫が家のポーチにあらわれだした。そして、結局、飼い猫となった。とてもきれいな猫で、本で調べて、どうやらRag Dollといわれる種類の系統ではないかと思うようになった。本によってはHimalayan Catと書いてあるのもある。あまりにきれいな猫なので、飼い猫が迷い込んだに違いないと思って、家内は当初、近所にきいてまわり、Animal Shelterにも連絡して調べてもらったりした。しかし、結局、誰も引き取り手はいなかったので、私たちの家で飼うことになった。Rag Doll Catの系統は、争いが嫌いで、つめを立てず、従って、子供の居る家庭でペットに適すると書いてあった。本当にその通りで、爪はあるが、引っかくようなことはせず、どちらかというと、遠慮がちに手を出すというタイプで、まさに最初の猫サーシャとえらい違いであった。
家内はBearded Collieの朝夕の散歩はコントロールがきいたかたちで、鎖でつながず、そばをゆっくり歩く形でおこなっていたので、近所のだれもがきれいな犬を認め、あの犬の飼い主というかたちで家内を認知するひとがいたほどであった。犬の名前はDuchessダッチスで、ちょっと発音しにくいが、由来は、家内が近所の公園でくつろいでいたとき、公園内を通りかかったある女性が,“Beautiful
Dog! Just like Duchess!” (きれいな犬ね。まるで、Duchessみたい。)と叫んだことにあった。家に帰って私にDuchessってどういう意味かと訊いたので、ミセス Duke つまり公爵夫人という意味だといったところ、家内はそれが気に入ったということで、それがKennel Clubに正式に届けられた。
このDuchessも老化して、死ぬまぎわにRag Doll Catがあらわれたわけで、二匹は別に争わず、すなおに共同生活に入った。その猫があらわれた夏、私達は犬を連れてNorthern Californiaへの休暇旅行を楽しみ、カリフォルニアの北の港町Eurekaで三泊すごし、家内が気に入ったといっていたので、猫の名前をEurekaとすることにした。ユリーカ といえば、語源はギリシャ語で、有名なアルキメデスが黄金の冠が純金か否かを見分ける方法として、風呂に入っていて、あふれるお湯で、浮力に気がつき、アルキメデスの原理を発見したその喜びで、裸で飛び出して叫んだ言葉とされてる。
Duchessもなくなり、Eurekaはひとり愛情を独占して、ゆうゆうと過ごして三年がたった。そして、あるときインターネットでかわいい犬をみつけた家内は、いろいろ調べて、California州BakersfieldのShelterにまだ居ることが分かり、ふたりでまず様子を見に行くことになり、気に入って採用を決めたところ、希望者があと2-3組居るから別な日に抽選ということになった。抽選のその日、ロスアンジェレスから2時間のドライブを早朝実行して、まだShelterがOpenするまえについた。ほかにもクルマで訪問者があらわれたので、抽選の相手かなと思っていた。しかし、結局、ほかの人たちは猫をPick Upにきたりとかで、問題の犬の競争相手はあらわれず、RangerはYours(あなたたちのよ。)といってくれたので、私達は往復4時間のドライブを2回もやった価値はあったと単純に幸運を喜んだ。
家には今では親分の貫禄を備えたEurekaが待っていた。犬は子犬でなく、2歳ほどで、すでに母親になった経験のある犬であった。猫と同じようなサイズで、うまくなかよくやっていけるか心配であった。その日から一週間ほどは緊張の毎日となった。Eurekaは片時も犬から目を離さず、裏庭におトイレに犬を出すと、必ず自分も出てくるという具合で、食事中はテーブルの上から監視し、ほかの部屋に移ればスグに自分も移動するという調子で、ほんとうに新しい珍入者を警戒し、尾行することが至上命令であるかのごとき態度をとりつづけたので、家内はネコに“Inspector”(警視)というあだ名を与え、私は“親分”と呼ぶことにした。
私はそのネコの反応振りから、これは自分がきたあと、前から居た犬がいなくなったた め、今度は自分の番ではないかと心配になったのではないかと思った。それで、そんな心配はしなくてよいと、それまで以上に私達は猫に気を遣うようになった。それでも、犬は当然の如く横柄に振舞うので、Eurekaは自分の座を奪われたように感じたのか、愛情の表現を露骨に示すようになり、近づいただけで、隣の部屋まできこえるほどの大きな音をだしてゴロゴロといい続けることが多くなった。また、自己表示をしないと後から来た犬の陰に隠れてしまうと思ったのか、頻繁にわめきたてるようになり、玄関を開けろとか裏庭に出せとか、Pet Doorがあいているにもかかわらず、わざと人をこき使うようになった。犬は主人につかえて忠実だが、猫は主(ぬし)であるということをつくづく感じさせるEurekaであった。
そして3年経ち、今では犬猫仲良く家族として暮らしている。どちらもPeace Prize Winner だなあと、家を暖かくしてくれる2匹に心から感謝している。
おわり
2009年4月7日執筆
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