小学6年生―社会科 日本の歴史 のための拙文集(6)歴史カルタ
歴史カルタ
教科書〔上〕P。130に、“歴史かるた をつくろう”とある。6年の歴史の学習が終わった時点で、ふりかえって、歴史上の主な人物・出来事をカルタにつくろうというのである。
教科書にはサンプルとして
か - 鎌倉に幕府開いた源頼朝
て - 天下分け目の戦い 家康の勝利
み - みんなして 輪になり語る自由民権
く - 国あげて救う願いだ 奈良の大仏
といったものが、かるたの絵の方と並べてあげられている。
私は、マンガ日本史、マンガ人物伝、そして伝記や平家物語、太平記とならんで“歴史かるた”もとても大切なものだと思う。私が歴史の中の様々の人物に興味を持ったのも、実はマンガのほかに、歴史カルタを、当時(小中)全部暗記していたからである。
家には、太平洋戦争の頃、忠君愛国心を高めるために出版したと思われる金言名句集等2冊の黒い表紙の本がおいてあり、密かに私はそれを全部読み上げた。特に歴史カルタに関しては、なども眺めて全部暗記したはずであった。あの頃から、もう35年以上経ち、全部思い出せないのが少し残念だが、サンプルをあげると以下のようなものであった。順不同。
る 類なき 名将 源義家
ゆ 弓勢(ゆんぜい)するどき 源為朝
に 新田義貞 稲村ガ崎
け 謙信切り込む 川中島
も 毛利元就 弓矢の教え
せ 船上山に 名和長年
ら 蘭丸ふるう本能寺
え えびらに梅さす 梶原景季
の 乃木・東郷は 国の花
ふ 福島正則 賤ヶ岳
ね ねいじん退く 和気清麻呂
う 宇治川の先陣 佐々木高綱
い 一家一門 忠と孝 菊池武時
は 博多の神風 亀山上皇
つ 月夜に しょう吹く 新羅三郎
え 絵筆に名高き 渡辺崋山
わ 別れは哀し 桜井の役 (楠木正成、正行)
や 山鹿流陣太鼓 大石良雄 〔以下、省略〕
といった調子である。
気がつくのは、文化人はほとんど入っていなくて、いわゆる英雄・豪傑・武将・忠臣といった人たちばかりがとりあげられている。ヒロイズムとそのモラルを売り込もうとした、戦中の政策を反映しているものと思われる。
しかし、私にとっては、様々な人物を知り、より深く調べるキッカケをつくってくれたのは事実で、こうして何十年たったあとでも、スラスラと出てくるものがある程、覚えやすく、リズミカルにつくられていたわけである。中には伝説まで歴史におりこんでしまっていたようで、
おー鬼の腕とる 渡辺綱 とか、 ぬーぬえ退治する 源三位(頼政)
とかというものまであった。
私は、父と銭湯(大衆浴場―風呂)に行った時、“和気清麻呂って、何をした人?”とか、“名和長年って、誰”といった調子で、あまり聞きなれない名前にぶつかると、いつも父にたずねた。たいがいのものは、一般常識として、父は知っていたが、くわしいことは貸し本屋で調べなければならなかった。父との風呂屋での歴史談は、私にとっては懐かしい思い出となっている。
これは、ただ、すでにつくられてある「歴史カルタ」に親しんだだけのことだが、この程度のものを自分でつくろうと思うと、名前と出来事だけでなく、その人のいろいろの逸話・伝記を知っていなければつくれない。なぜ、源義家が“類なき名将”なのかは、義家にまつわる様々な話を知っていて、はじめて納得がいき、また作り出せるのである。
教科書にも出ているくらいだから、教科書程度の歴史カルタを各人がつくりあげるつもりでいて欲しい。興味を持って取り組んでいけば、自然と、大体の日本歴史の動きがわじゃってくるから、上巻が終わる頃には、イメージとして、自分のカルタをつくれるようにはなっているだろう。カルタを作るときには、誰を択ぶか、何を択ぶ、名前〔人名〕が先か、後か、リズムがあって覚えやすいかといったことに注意しなければならない。そして、えらぶ対象も、かたよらないで、いろいろな時代、様々な分野の人物を択ぶようにした方がよいし、リズムにもバラエティをもたせる工夫が大切。でも、こうして自分で作るつもりで歴史に取り組む時、日本歴史は本当に面白いということを発見できるであろう。
1994年4月29日 執筆
村田茂太郎
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