Mount Taylorをめぐって (New
Mexico, Grants)
New Mexico、Albuquerque(アルバカーキー)の Sandia Mountains から西を見渡すと、Albuquerqueのドライな地平線のかなたに、なだらかな傾斜を見せて雄大な広がりを持った山がかすかに目に入る。Albuquerqueから70マイル西にあるGrantsにそびえるMount
Taylorである。AlbuquerqueからGallupに向けてI-40を西に走ると、Grantsに向かって何も無い広漠たる空間が広がっているのを知り、ここもNew
Mexicoの砂漠といえる地域だなと感じる。I-40が一本どこまでも西に延びているばかりである。しかし、ドライブは気持ちよい。I-40は交通量は少なくないが、スムーズに広大な天空の下を走るのは快適である。
Grantsに近づくにつれ、Mount Taylorを擁した San Mateo Mountainsが正面に、そして右側に見えてくる。Mount
Taylorは海抜11301Feet(約3450メートル)広大な裾野をもった、なだらかな山で、南側の山腹は頂上部から森林部にかけて裸に見えるので、ツンドラ帯かと思い違いやすいが、草原になっているだけで、ツンドラ帯ではない。
1995年9月30日、AlbuquerqueのSandia Mountains 10K Trail を歩いたアト、私はGrantsのモーテルに泊まる事に決め、予約ナシなので早い目にモーテルに入る事にした。そして翌朝 Gooseberry Spring Trail Head まで無事にドライブできた。Grant周辺は一見何も無いように見えるが、ホンの少しのドライブでPineとFirの大森林地帯に入ってゆく。10月1日であるが、既にAspenは色づき始めていた。誰も居ないTrailheadの道路際にクルマをとめ、スグに森の中に入っていった。静かな松林の中、鳥の声と風に鳴る樹木のざわめき以外、人工の音が何一つしない世界を歩く気持ちよさは、スグにこのハイキングのすばらしさを教えてくれた。空は晴れ渡り、気持ちのよい秋空である。
Mount Taylor登山は往復7マイル足らず。登る高さは700メートル足らずなので、私は朝8時にスタートすれば、12時には帰ってこれるだろうと計算した。いつもの単独行である。単独行をしていて一番心配になるのは凍死である。Hypothermia。いわゆる過労等によって身体が体温調節機能をを失ってしまうことによる恐ろしい事故で、この状態に入ったときに、グループの場合、協力して身体を暖める何らかの手段をとれば凍死にはならないが、単独の場合は不可能である。
私が京都で下宿に居たとき、大文字山でどこかの大学生二人が凍死しているのが見つかったというニュースを知ったことがある。大文字山は私の下宿していた吉田山から目の前に見える海抜400メートルほどのなだらかな山で、私は京都に居る間に春夏秋冬と計10回程のぼった。銀閣寺への道から登り始めて約30分で大文字のところにつくので、手ごろなハイキングであり、秋の夜、下駄で登ってすばらしい夜景を見ながら、鈴虫の透き通った声を聞くといった風流な体験もしたし、テントをはったりもした。従って、大文字山で凍死などというニュースは信じられない話であった。
ひとりで山歩きをはじめて、自己管理に敏感になった私は、登山の服装や起こりうる事故についても、いろいろと本を読んで調査した。結局、一番恐ろしいのは、このHypothermia(凍死)とLightning(落雷)であると判断し、ハイキングにも注意深くなった。1994年11月4日土曜日、はじめてTexas最高峰Guadalupe Peak(2667メートル)に登頂したとき、その2-3日前にStormがあったため、Peak
Trailには雪が残り、ものすごい風が吹いていた。頂上に着いたとき、溶けた雪が凍って、氷点下の風が吹きまくり、一分もじっとしておれない寒さであった。今の私なら、そういう天候の場合は無理をして山に登ろうとはしない。私は多分ラッキーであったに違いない。登山自体は一生記憶に残るすばらしい体験であったが、同時に当時の私の無知をゾーッと思い出させるハイキングであった。
汗かきの私は下着が特に気になる。最近、私はPolypropyleneという熱保存の聞く下着を購入し、汗で濡れても、そんなに熱が奪われないということを知って、それを愛用するようになった。日本での冬山遭難の多くも、結局、下着不全による凍死が多かった。それでWoolがよいということをきいていたので、Woolの下着を手に入れようとしたが、なかなか手に入らなかった。そのうち、Woolよりもすばらしい下着が現れているのを知った。今、Sporting
Goodsの店に行くと、様々な下着が手に入る。靴下、下着、みな命がかかっているので、私はこうしたものには惜しみなくいいものを購入するように心がけている。
大文字山での遭難も、今、私には想像可能である。軽装で登った二人は、他に何の準備もしていなかったにちがいない。木綿のシャツは汗をかいた後がタイヘンである。家に居れば着替えればよいし、汗を拭けば問題ないが、何も無いところで、登山のため汗をかいたアト、冬山で気候が急変して寒くなれば、Hypothermiaの現象が起こり、30分の下山でさえ、不可能となる。二人で行動していても、二人とも同じ状態になれば助からない。ホンのちょっとしたことが命取りとなる。
今では、私はThermalのシャツを着て登山する事にしているが、Mount Taylorに登ったときには、まだ、木綿のシャツであった。そしてHypothermiaの話は知っていたので、風邪が強く、寒いところで、汗をかいたままでいるのは死を招くようなものだと考えながら、風当たりの強い、眺めのすばらしいスロープを登っていった。そして、いいかげん汗をかいたので、このまま上に上がるのは危険だと考え、岩陰で休んで下着を脱ぎ、汗を拭いて別の下着を身に付けた。Mount
Taylorは孤独な山で、ハイカーは他に誰も居ない。私一人がこの美しい森林と草原で出来たなだらかな山腹をこつこつとのぼっているだけである。ただ、10月1日とはいえ、晩秋のしょうしょうとした秋風が吹いていて、濡れた肌には冷たい。私は着替えをしてさっぱりし、気持ちよくなって、安心して頂上目指して歩き出した。
頂上付近は枯れた秋の気配が漂い、野鳥が二羽、私を別にこわがりもしないで、何か餌らしきものをついばんでいた。かなたには緑の森林がひろがっている。エルパソからはるばると、こんなアメリカ人でさえほとんど誰も登っていない山にやってきて、美しい自然をエンジョイしている自分自身を本当に幸福に思わせるような手ごろなハイキングであった。周りの山々も、やさしく、なだらかである。最後のSwitchbackのアト、頂上に着くと、片面は森林地帯で、南側はたまたまどうしたことか樹木が無く、草原になっているだけだとわかる。頂上には人が隠れる窪地があり、これは風をよけるのには適しているので、何かの時には避難可能である。眺めはすばらしい。Aspenの紅葉にはホンの少し早すぎたようだ。
私は満足して下山にかかった。もう安心である。30分ほど降りたとき、はじめて一組のハイカーと出遭った。そのあと、道沿いで何かが動き、注意してみると、Horned
Lizard(とげのある丸いトカゲ)であった。Southwestには何種類かのHorned Lizardが居るが、見たのは初めてであった。ともかく、Wild
Lifeに出合うとうれしくなる。私は写真に撮り、下山を続けた。そして、丁度12時、クルマに戻った。来た道を戻れば、スグにGrantの街に入り、I-40に乗ることができる。そうするべきであった。しかし、探求心旺盛な私は、このHiking
Trailheadへの道がループしてGrantsに戻っているのを知って、そのまま奥に入る事に決めた。
砂利道を辿ると、本当にAspenが黄色になっているところがあり、やはりドライブをつづけたのはよかったと思った。ところが、その道がだんだん悪くなり、デコボコが激しく起伏してワダチの跡ともいえるタイヤの跡が随分深く切れ込んだりしてドライブが容易でない。走っている左右はPine林からJuniper林へと美しくつづいているが、道路は舗装されていないだけでなく、通る車も少ないせいか、荒々しい道である。スピードも出せない。あるとき、私はクルマの底をかすったように感じ、ゾーッとした。車がほとんど通らない大森林の中である。動かなくなったらどうすることも出来ない。私はクルマがエンコしないよう祈るような気持ちで、ソーっと注意深くドライブしたが、広大な森林が果てなく続き、一体、ループの終点はどこにあるのかと思うほどであった。登頂したMount
Taylorが美しく見えたりするので、大分離れたはずだが、一向に森林から出ない。ズーッと不安が襲い続け、必死でドライブしつづけた。そのうち、Mountain
Bikerの二人とすれ違ったので、少なくとも、少しは人気のあるところに近づいたのだと、少しホッとした。そして1時間近いドライブの末、やっと舗道に出たとき、本当に救われたような気持ちであった。
このループ・ドライブは、時にはもと来た道を引き返すほうがよい場合があるということ、ひとりでドライブするときは非常事態に備えて、飲料水や食物は余分にクルマに入れておいたほうがよいことなど、いろいろと教えてくれた。多分、私はまだラッキーな人間なのだ。それで、じかにいろいろな体験を通して、順番に単独行に必要な生存の知恵を身に付けられるようになっているのだと思った。
“Mount Taylor and vicinity is cool and pleasant in summer and
snow-covered in late fall, winter and spring. This is a beautiful area and a
nice hike. Try it!” (Harry Evans [50 Hikes
in New Mexico]).
Mount TaylorはPresident Zachary Taylor に敬意を払って、1849年US Army’s地質調部隊のlt。James
Simpsonが名づけたが、この山はNavajo Indiansにとっては、古くから4つのGreat Sacred Peaksの一つであった。(一つはアリゾナのSan
Francisco Peaks, コロラド Sangre de Cristo RangeのBlanca Peak、そしてコロラドDurango近くの Hesperus
Peak)。
山の斜面に高い樹木が無いのは、太陽と風、と3400メートルの高度、そして地面がRocky Soil のせいだろうといわれている。頂上のハイカーのNotesの中に、次のメッセージがあった由。”It
sure is great to rediscover what life is really about again! A great hike and a
great view. What a great sense of peace!” (Sherry Robinson [El Malpais, Mot.
Taylor and Zuni Mountains]).
ソウ、この山は火山であったが、今は本当にPeacefulな山である。
村田茂太郎 Original 執筆1997年4月27日
Word Input 2012年6月13日
Mount Taylor from El Malpais National Monument、New Mexico |
Horned Lizard At Mount Taylor |
No comments:
Post a Comment