「心霊現象の科学」をめぐってーその89 「Paranormal」Raymond Moody, M.D.を読む
Raymond Moodyといえば、言うまでもなくElizabeth Kubla-Rossとならんで臨死体験に関する研究を発表して、世界中に、DeathとAfterlifeに関する関心を沸き起こした有名なドクター(Ph.D., M.D.保持)である。
それは1975年のことであった。「Life after Life」と題されたDr. Moodyの“臨死体験”に関する研究の成果が発表され、“臨死体験Near-Death-Experience”という言葉が世界中に知れ渡った。
この本は世界的なベスト・セラーとなって、世の中にDeath死への関心を高めた著者がどのような経過で彼の関心がうまれたか、どのように展開していったか、自分の人生を振り返ってみた“自叙伝Autobiography”である。
PhilosophyのPh.D.とMedical Doctorの二つの学位をもつドクターで、大学教授、世界的なベストセラーを発表し、外から見ればすべてに恵まれているように見える彼の生活が、実はそれほど単純、ハッピーなものでなかったことを知って驚かされる。
最初のところで、彼は1990年ごろに自殺を決行したことに触れ、そういう人間が書いた本を読みたくなければ、読まないでくれと記している。
自殺の理由は、人生・生活への絶望からであったが、その大きなものはTyroid Deficiency 甲状腺ホルモンの欠陥による身体異状が強度の精神的Depress状態を生み、意識の抑圧状態の中で、人生が絶望的になるという、いわば肉体上の苦悩が精神にまで影響をあたえたことが最大の理由のひとつであったが、ほかにベストセラーによる金の流入のコントロールをあやまって、人にまかせきりにしたため、だまされて、財政的に破局がもたらされたと記されていて、そういう物質的・精神的苦悩のなか、さらに、丁度、イラクのクウエート侵略がはじまろうとして、湾岸戦争への緊張が高まりつつある時点で、かれの新しい著書への関心よりも、政治的・軍事的関心が世間的また出版社的にも高まっていて、新著は売れそうになかったという状況であった。そして、そのTyroid甲状腺ホルモン異状という病名がわかるまでに、いろいろな医者・病院を経巡って、何十年もたってやっとある医者が簡単に見つけたという話で、そのあとは、それを意識しながら、それでも苦労して生きてきたということが記されている。
では、どうして死ななかったのか、自殺未遂に終わった理由は、彼が人生最後の段階での会話を共著者となっている、何年も一緒に製本に携わってきた出版社の友人に電話をかけて“やった!睡眠薬を飲んだ!”といって最後の会話を楽しんでいた。この共著者がたまたま電話にでたということが自殺未遂になったわけであろう。
大学の自分の研究室で鍵をかけて睡眠薬自殺を実行したわけであるが、まだその共著者・友人と電話で会話中にドアーがノックされ、合鍵を使って警察とEmergency Serviceの一隊が侵入してきて、ドクターを縛り上げ、警察の一人が電話を交代して、どの睡眠薬をどれだけ呑んだのか、などを相手に報告して、救急病院に運ばれた。
この話は、最初に語られているが、自伝として年代をたどるなかで、1990年ごろの状況報告のなかで、もう一度語られている。この電話で会話中にEmergency部隊が研究室に侵入してきたという話で、どうなったのかの説明が不足しているので、私は自分で想像してみるのだが、この友人がMoody睡眠薬摂取の話を耳にして、電話でDr. Moodyと会話を続けながら、ただちに彼の出版社の同僚または部下に、紙にメモを書いてEmergency部隊の出動を要請する指示を与えたのであろう。どこに居るかも告げていなかったのだが、もしかして、彼がみつかった大学研究室だけでなく、ほかにも心当たりのあるところへ緊急部隊を送ったのかもしれない。ともかく、この友人との人生最後の会話が彼の命を救った。
この自殺未遂の体験は、ひとつ確実に彼自身にとってためになるものであった。というのは、彼はまだ学生中から臨死体験の情報をさまざまな人から集めてきたのだが、自分で臨死体験をもったわけではなかった。この睡眠薬自殺未遂の朦朧とした意識不明の状態のなかで、彼はかれが何度も聞き取ったかたちの完全な臨死体験ほどではないけれど、それに近い体験を持つことができたのであった。
Dr. Moodyは「Life After Life」をあらわしたが、そのいわば患者たちの臨死体験報告がそのままAfterlifeの存在証明につながるとは思っていなかった。彼は哲学者として、そして科学者として、あくまでも科学的に自分に納得がいくところまで探求するつもりあったので、いつも彼の意見をたずねられたときに Proven the survival of bodily death肉体がほろびてもあの世で命があるという証明 がなされたとは思わない、自分には Proves the appearance that we survive after death つまり肉体が滅びても何かが生きつづけるように見えるということが証明されただけだとこたえていたのであった。
彼はこの道Death探求で既に有名なDr. Elizabeth Kubla-Rossとも直接会って話し合ったことがある。彼女は、彼女のDeath bedの観察や、自身がサイキックであることからくる体験から、Near death experienceはまさに“あの世”があり、人間は肉体がほろびても、魂は生き続けるという証明であるという信念を持つに至っていたが、彼自身はあくまでも探求者としてとどまっていた。
この自殺未遂のおかげで、ほかのひとが報告する話の内容を自分でも確認でき、ほかの体験(Past-life Regression)なども手伝って、やはり人は死なないという結論に達したようである。
Elizabeth Kubla-Rossは、人が死(病死)に直面したときにとる態度の変化をDeathbedで観察し、自分で考察して5つの段階をえらびだした。
Denial 拒否、Anger怒り、Bargaining取引、Depression意気消沈、Acceptance受領
の5段階を経るというわけである。そして、この最後のAcceptanceの段階を迎えるころに、どうやらAfterlifeのほうからお迎えがやってきて、Afterlifeの片鱗を垣間見ることができるようになり、ほとんどすべての人が、心安らかに次の次元に移行していくようである。
Dr. Moodyは、臨死体験を体験したものだけが、おごそかな輝きを体験するだけでなく、死ぬ間際の患者と一緒に居るすべてのひとが、時に、この、この世のものと思われない荘厳な瞬間を体験するらしいと、自分も含めて経験したことから、Shared-Death Experience 人が死ぬ間際の超自然的Paranormalな体験を、そのまわりにいる家族のものも体験するようだということに気がつき、その方面の研究に入っていったようである。
臨死体験の特徴を始めて整理してLife After Lifeに現した後、世界的に有名になったわけであるが、誰もが、必ずDr. Moodyの見解に賛成するというわけでなく、Talk showのホストがいじわるをしたり、Fundamentalistといわれる原理主義者、狂信的なクリスチャンの信者が妨害をしたりということがおきたようである。
臨死体験の研究によると、人間誰でも、この臨死体験の特徴といわれた体外離脱体験、トンネル体験、荘厳な光との出合い、愛と慈悲と寛容にみたされたAfterlifeの発見、地球上のどの絶景よりもすばらしく、心和む景観などに接するようであり、また既に亡くなった家族や親戚友人などに再会し、それは人種・宗教に関係ないようであるということが、Fundamentalistには気に入らず、自分たち熱心な信者だけが救われるはずで、Dr. Moodyのような発言はサタンの惑わしに違いないというわけである。アメリカのある州のある町には、このような狂信的な集団が強力な力を持ち、Darwinの進化論でさえ、教室で教えてはならないというところがあるほどで、恐ろしいことだと思う。宗教・信条に関係なく、平和を愛する民衆は、誰にも寛容で、平和共存を願うことを、私などは切に希望するが、この世界には違った考えを持つ人々の集団があるようである。ナチズムやスターリニズムは一時的なものではなく、ふつうの人間の中に簡単に醸成されるものであることを語っている。おそろしく、また、悲しい事実である。
講演のあと、Reincarnationについてどう思うかと訊ねられたDr. Moodyは最初は否定的ともいえる反応をしていたが、あるとき知人で催眠術を治療に使って効果を挙げている心理学者にPast-life-regressionをしてもらったところ、なんと9Lives 9回別な人生を生きたような印象をもった。それも、Primitiveな、言語も何も持たない大昔の人間の間に生きていた記憶から、ローマ帝国時代に闘技場でライオンLionのえさにされて食べられる話など、かなりリアルに感じ取ったようである。
そして、彼の探究心は、1900年に出版されたNorthcote Thomasの本“Crystal Gazing”をある機縁で読むことになり、そこからScryingの世界に入ることになった。Oracles予言といえばギリシャが有名である。もっとも有名なオラクルは、プラトンPlatonが書いた「ソクラテスの弁明」に記された、デルフォイ神殿で発せられたという「ソクラテス以上の賢者は居ない」である。ギリシャ哲学を勉強し、Ph.D.を哲学でとったDr. Moodyはしたがって、Oraclesというものに深い関心があり、このCrystal Gazingなども真剣に探求することになった。Psychomanteus(サイコ・マンテウス)が古代ギリシャ人のあるひとびとがOracles予言につかった方式であり、彼らは特別のCave洞窟を用意したようであるが、(彼は再婚の旅行先をギリシャにえらび、このPsychomanteus を自分で体験したようである。)Dr. Moodyは自分のあたらしい家を改良して「Theater of the Mind」という特別の部屋を作って、その探求を始めた。まず自分で取り組んである程度納得のいく結果を得てから、大学の自分のクラスの学生をVolunteerでつのって、実験し、なんらかの成果が上がるのを確かめて、被験者をふやしていった。宣伝はしていないのに、うわさは伝わって、海外からこの実験参加希望者があふれるほどになった。この彼の装置はひとり一日かかり、数多くこなせないので大変であるが、これからわかったことは、実験的にGhost的な人物を呼び出すことができ、場合によっては実験措置を操作して、科学的な研究も可能であろうというものであった。
彼は後ほど、この方法や鏡を使った方法などさまざまな方法を研究して「Reunions」(Visionary Encounters with Departed
Loved Ones)という本をあらわした。それは、別に特にサイキックでなくても、そしてMediumsのヘルプをあおがなくても、故人に会うことは可能だということを証明したものであるという。わたしはまだ自分で実験していないので確認はできないが、この本には被験者として参加したひとびとの事後報告なども載せられている。この自叙伝にも驚くような話が載せられている。
Dr. MoodyのFatherは軍人でもアリ、Medical Doctorであった。父は頑固な無神論者で科学主義者であったので、なんにでも興味を抱き、自分でトライしてみようとした息子はずいぶん苦労したようである。
この「Theater of the Mind」を自分の家に設けて、故人のGhostを呼び出す実験をしているときいた父親は、丁度息子の顔色も悪く、病気であるのは確かなので、救急車を呼んで病院に運び込んだ。なんと、それは普通の病院のEmergency入院ではなく、息子が、頭がおかしくなったらしいということで精神病院に入れてしまったのであった。あれやこれやの騒動のあと無事退院したわけであったが、彼はそういう父親を許せなかったようだ。父親が死の床についても、特に自分から見舞うということはしなくてSisterなどにまかせていた。Sisterなどの報告では、のちほど、死ぬ間際にお迎えが来たのを感じ、あの世があり、息子の言っていたことが正しかったと悟ったようであった。そして、今度は自分の番で、自分の妻が亡くなるときに、自分がお迎えにいったらしい。
最後にShared-Death ExperienceがAfterlifeの証明につよい証拠を提供すると感じて、その探求に入っていく決意をしたようである。臨死体験はドラッグその他が招いたものだという説が絶えないが、この死の床の患者を見舞った近親者などが体験するShared-Death ExperienceはドラッグをとっていないVisitorsが体験するということで、より客観的証拠といえるだろうというわけである。
この本は、私にとっては、ものすごく面白く、楽しく読めるものであった。やはり彼は哲学者であり科学者であると思う。
最後に、すでにこのブログでとりあげた(心霊現象の科学―その66)George Ritchie、M.D.が、この彼が勉強していたUniversity of Virginiaの医学部の教授をしていて、そのDr. RitchieをたずねたMoodyにとって、その出会いは、彼Moodyが臨死体験に興味を持ち、深く探求していく原動力ともなるものであった。George Ritchieの本「Return from Tomorrow」の出版は、Moodyの「Life After Life」よりもあとのことであるが、Moodyは直接、その臨死体験の話を本人からきくことができたわけであった。これもやはり偶然というよりも「Everything happens for a reason」ということであったろう。
「Paranormal」(My life in Pursuit of the Afterlife)By Raymond Moody, M.D. & Paul Perry 2012年 P.247
ISBN: 978-0-08-204643-7
村田茂太郎 2014年4月25日