Kristin Hannah “Fly Away” を読む
Kristin Hannahの他の作品のいくつかについては、このわたしのブログですでに紹介した。Fly Awayは去年2013年に出版されたが、わたしは最近Paperback版がCostcoで出たのを見て、すぐにとびついて買い求め、二日かけて読了した。(400Page).
これは2008年に出版された「Firefly Lane」(479Page)の続編ということであったので、わたしはためらっていたが(読者の書評の中には暗いイメージを描くものが多かった)、読み終わってVery Goodという印象を持った。
「Firefly Lane」は1年ほど前にAmazonから購入して、やはりすぐに読了した。女友達同士の友情を描いたもので、同時に主人公のひとりが乳がん(Inflammatory Breast Cancer IBC)で亡くなるという設定で、読者への乳がんに対する警告のような役目も果たしていた。しかし、ひとりの女主人公Tully Hart(または Tallulah)の過去やその母親らしき女性の異常な反応の理由が不明なままであった。したがって、このいわば二部作の第一部では主人公Kate Mularkeyという女性が中心を占めていたが、最後に癌でなくなり、第二部はKate亡き後の遺族とTullyそしてその母などをめぐる展開となっている。第一部ではTullyがMedia世界で成功して独立のホスト・ショーをもつほどになっていたが、親友のKateが乳がんで死にそうだと知らされて、ショーも何もかもすててKateのために尽くすが、結局、Kateは死んでしまう。死ぬ前にKateは自分の家族の、特に子供たちの力になってくれるようにTullyに依頼する。
第二部「Fly Away」は、Kateの葬式とそのあとの展開となるが、話はKateがなくなって4年たち、Tullyが孤独の世界に迷い込んで、絶望的な状態になっているときに、Godmotherにあたる親友Kateの娘Marah Ryanから冷たい仕打ちを受けて(スキャンダルを売り物にする雑誌に暴露記事をのせられて)、逃げるようにして、夜の雨の街中に車を出し、事故にあって(自殺ミス?)、瀕死の状態になるという場面からはじまる。
TullyはComaの状態になって、病院で横たわり、それを知ったKate Familyなどがかけつけて見守る。そして、このComaの状態と、Kate逝去後の4年間の一連の関係者の動きが、断続的に明らかにされていく。
Tullyは親友のKateの危篤状態を見舞うためにショーのすべてを無断でCancelしてしまったため、いざ、何ヶ月か経って、気を引き締めてショーの世界に戻ろうとしたら、Media界のすべてから断られるという状態である。そして、自分がヘルプできると思っていた親友Kateの遺族Johnny Ryanからも冷たいあしらいを受け、Xnaxという睡眠剤などをPsycho―Therapistから処方してもらって、それにおぼれるようになった。
そして、Spoilerになるが結論から言うと、Comaで1年ほどたち、(その間、病院治療から家庭療養にかわり、意識が回復してからまた病院に戻り、回復を確認してから再度家庭にうつるというかたちで)、最終的にTullyは意識が回復する。このTullyの事故とComa状態が、それまで疎遠になっていたすべてを収束する求心力となってはたらく。Kateの夫Johnnyも自分の態度が間違っていたとわかり、その娘MarahもGodmother Tullyへの反応がTullyの事故を招いたと判断し、根本的な反省を行う。
その間のTullyのComaの期間に体験するOut-of-Body Experience(対外離脱体験)と臨死体験によくみられるAfterlife CommunicationでのKateとの会話などが、重要な展開内容となっている。そして、第一部では謎のままになっていたTullyの母親の経歴がかたられ、それもComaの状態の娘Tullyに話して聞かせる物語という形で、暗い近親相姦Incestの悲劇とBattered wife 暴力的な男との関係、Drug, Alcohol中毒からの脱出、その他の情報がつむぎだされる。そして、残されたKate Familyの父親Johnnyをめぐる娘Marahの葛藤、思春期によくある拒否反応、それが母親逝去のために複雑な感情問題と化し、それに父親は対応しきれない、などがあわされて、なかなかHeavyな内容の物語となっている。読み応えのある傑作であった。Very Good である。
Comaの状態のTullyが事故にあうまでの遍歴をいろいろな角度から描き、時間の推移もつぎつぎと移動し、現在のComaの状態での周りの反応から、この4年間の関係者たちのさまざまな動きが展開され、単純なラブ・ストーリーの展開とは異なって、重厚な展開となっている。第一部にあたるFirefly Laneは物語が時間の流れに従って展開されているのに対し、この第二部にあたるFly Awayは現在の事故とその後のComa状態から、それにいたるまでのKateの葬式からTullyの職探し、Marahとの関係、TullyのMother Dorothyの個人史と、物語は現在のComa状況の報告を何度も組み込みながら、4年ほど前から現在に至る関係者の動きなど、頻繁に移動するので、書くほうも大変であったと思われるが、読むほうも今読んでいるのは何時の話か確認しながら読み進める必要がある。したがって、読みやすい物語ではないが、読み終わった後、全貌がわかり、物語が大団円に集結していくのがわかると、なるほど上手に収束しているなあという感想がうまれる。
しかも、このTullyのComaという危篤状態をとおして、関係者がみなあつまり、それぞれの思いに反省しながら、一致してTullyの回復を願い、家庭看護の協力をみんなで誓い、それぞれ反省すべき態度をもちながら、このComaの女性に献身的に働きかける中で、それぞれが浄化され、Forgivenessゆるしの大切さが確認されていく。さまざまな問題を抱えたすべてのものが、お互いにゆるしあい、愛し合うということで、大団円が完結する。天界から見守るKellyの霊も、Tullyが生きながらえただけでなく、元気に回復していくのをみてとって、今度は安心して、つぎの次元へとFly Awayしていく。
Kateという母親があまりにも強烈で魅力的であったため、彼女がなくなったあとは、中心がなくなったようで、夫であった父親にはその分解をひきとめる気力もない。KateとTullyが仲たがいし、TullyがKateを傷つけたことをうらみに思っている夫は、Tullyをいつまでも疎外しようとする。孤独に耐えられなくなったTullyはますます睡眠薬と精神安定剤に依存するようになる。すべてがばらばらになって、もうどうにもならないような状態で生み出されたTullyの瀕死の重態は、それぞれを集結する機会となり、過去の自分の行為を反省することによって、回復のチャンスとなる。娘Tullyから逃げるように去っていった中毒患者の母親も決意してDetoxにはいり、中毒状態から脱却することに成功する。1年間Comaの娘の看護で30年以上ほったらかしにしてきた自分の罪が償えるとは思わないが、娘Tullyは関係者みなに感謝しながら、希望のある将来が描かれる。
著者Kristin HannahがParapsychologyや心霊現象の領域に深い関心を寄せ、よく勉強していることは、1994年に出版された「Home Again」という心臓移植の結果起きる生理的心理的反応について上手に小説に生かしていたのでもあきらかであり、「Comfort & Joy」という小説では飛行機事故に会った女性が病室に意識不明で横たわりながら、魂が抜け出して、肉体を供えて不思議な体験をする世界を描いていた。この「Fly Away」では、Comaの状態での霊界との交信、対外離脱体験、その他、超常現象的な世界が語られ、その方面の知識や今の常識を知らない人には、すこし異様な小説と思うかもしれない。しかし、この領域に関してかなり勉強してきたわたしには、納得のできる展開であり、すこしも奇異に感じられずにすんだ。
Comaの状態の人間に対する祈りの効用、そしてComaの状態の人に対する語りかけの重要さ(つまり、一見、Comaで何もわからないように見えても、実はOut-of-Bodyで近くにいて、語りかえられた内容を理解しており、それがComaからの意識の回復に役立つこともあるわけで、Comaの状態だから、何を言ってもわからないだろうと判断するのは危険ということである。)なども、よく踏まえて組み立てられている。
しかし、一般的な読者から見れば、この小説は異常に思えるかもしれないと感じる。
Amazonでの読者の書評をみると評価はまったく分裂しているようだ。Negativeな反応をしているひとは、半分読んだだけとか、最後まで読み終わっていない人が多いようだ。最後まで読み終わる気力がないというか、途中までの複雑で、絶望的な関係のなかで、希望を見失うことになったひとが多いということかもしれない。
ここに、この主人公Tullyの現在のComa状態とそれをめぐる関係者の動きが重要な駆動力となって、最後のみごとな終結へと導かれるわけで、最後まで読みきれた人は、この本がそれまでの彼女の小説よりはるかに複雑でレベルの高い次元に達していると感じたであろう。
もちろん、私は、愛する妻を亡くした夫が自立できないほど分解していくとか、愛する母を亡くして、ぐれていく娘とかという状況を理解するのに苦しむほうだが、そういう人もいるだろうと思えばそれでいいわけである。みんなわかりきって、強く立派にやっていければ、別に小説が成立する必要もないわけで、やはりある種の状況で異常な反応が成立するところに小説らしい筋道も成立するのだと思う。
ひとつわからなかったのは、MarahがTully推薦のTherapistの集会に参加して知り合った、あやしげな思惑の男Paxtonが、実は妹を亡くして異常反応を起こし、Homelessのような、不良になっている、そして、このいれずみだらけの男がなぜ妹に対して情緒的になるのか、わたしが読み落としたのか、理由がはっきりしていなかったように思う。彼が妹とIncestの関係にあって、妹が自殺したとかということであれば、この男のEmotionalなGuilty Consciousnessも理解できるのだが、その辺が私には疑問であったが、それ以外は上手に展開されていて、大変深みを持った小説であったと思う。
Tullyが親友Kateが乳がんで死にそうだということで、Firefly Laneでは、すべてをなげうってKateの感情に当たるという筋立てで、感動的といえばそうだが、ふつうは休暇をとるとか、理由を説明して、できる限りのことをするのが普通だが、この小説Firefly Laneにおいては、極端な行動にうつり、そのため、Fly AwayではMediaの信用をなくして、だれもスタークラスのTullyを雇うものが居ない。それでストーリーが成立するといえばそれまでだが、わたしには異常な反応振りで、したがって、Firefly LaneのほうはSoap Opera的、メロドラマ的とわたしは受け止めていた。
このFly Awayを最後まで読んで、やっと安心できたというところである。愛する親友のために自分のすべてをなげうって死ぬまで看病しようとした女性、そして親友に死ぬ間際に頼まれた勤めを果たそうとして、すべてに失敗したことを認めながら、Comaの状態で1年間格闘して、生き返ってきた女性、それを偉業としてみとめて彼女の周りに集まってくる彼女のショーの昔のFanたち。IncestやDrug中毒、アル中からの脱出に成功して、自分が疎遠にしてきたComaの状態にある娘を1年間自宅で看病する母親。
これで、Tullyが死んでしまえば、めちゃめちゃであるが、無事、生き返って、疎遠な仲間と感謝と許しを交換し、どうやら、Tullyを支える男もあらわれ、Kateの夫も自立できるようになり、娘Marahも小さなLos Angelesの大学へ進学する決心がつきということで、すべてが見事におさまるわけで、読者としては、おおいに満足できるわけである。少なくとも、わたしは、これは二部作(上下二巻本)として読めば、内容豊かな、複雑な構成を持った、すばらしい大河小説であったと思う。
わたしが特に気に入っているのは、「Firefly Lane」で、孤児のようになった娘TullyをKateの母親が引き取るところで、このKateの母親も父親も非常に心が豊かで、穏やかで、彼らが出てくると、わたしはなぜかホッとする。このFly AwayでもTullyが事故で入院・危篤・コーマとわかると、すぐにでも夫婦で自分の娘の面倒を見るように、アリゾナから飛行機でとんできて看病しようとし、ヘルプしようとする。まさに、人間にとってもっとも大事なUnconditional Loveを実現している人であると思う。源氏物語 “花散里”でもそうだが、無条件の愛を提供できるような人間の登場は、大げさでなくても、私には感動的である。
Firefly Lane P.88-90. “Welcome to our family, Tully.”(タリー、あなたは家族の一員よ!)。 Juvenile hall か Foster familyかというチョイスしかない中での、Kateの母親が言った言葉 そしてKateと一緒にすごした、家族の一員としてのSenior Year of high schoolが、TullyにとってSingle best year of her lifeとなったのはいうまでもない。これがあるからこそ、Kateの危篤状態を知ったTullyはすべてを投げ捨ててKateの枕元に駆けつけたのであった。ということは、この一見、不自然に見えるほどのTullyの思い切った行動とそのあとの苦労も、このTullyのこのときの感動を理解していれば、まあ、われわれ読者にも納得がいくことになる。ふつうは、常識的には成功しているビジネスを投げうって、駆けつけるということはできないはずだが、それをやらせるほどの魅力と影響力をKateとその家族はもっていたということである。そして、今度はTullyがComaの状態になったとき、Kateの両親は献身的に、まさにKateと同じ家族の一員として、あらゆる努力をしたのであった。
この小説はNicholas Sparksの「The Notebook」や「A Walk to Remember」などのきわめて単純明快な小説と比べて、複雑な内容を持った大河小説であると思う。Notebookもすばらしいが、この二部作はこれで完成しており、KateとTullyにつきあってきた読者は、最後まで読み進めてきて、きっと満足するはずである。
私は、Firefly Laneだけでは、納得がゆかなかったが、Fly Awayまで読み進めて、やっとすべてがうまく収まったと感じ、なかなかの名作であったと思う。
Sandra Bullockがアカデミー賞を受賞した映画「Blind Side」であったか、これも私は好きなのだが、どこが好きかというと、SandraがHomelessになった黒人の大男の高校生を自分の家に引き取り、Adoptまでする、そのときに、彼女の夫も男を受け入れ、二人の子供も受け入れて、熱心に教育しようとする。つまり、この家庭(裕福で余裕があるということは確かだが、それだけでは誰も黒人のHomelessの大男を家の中にいれることにならない)は全体がやさしい母親の愛に包まれており、この行動力のある母親のDecisionを、夫を含めて、尊敬しサポートする家族的協力が、この家族を際立たせているといえる。いわば、Unconditional Loveの実現が表現された映画であって、その愛の美しさが見ているものの心を打つ。
ともかく、Kristin Hannahのこの2作品 「Firefly Lane」と「Fly Away」は上下二巻本として読むべきであり、またそう読めば、これはさまざまな問題を上手に処理したすぐれた大河小説であったということになる。もちろん、基本のテーマは友情・愛情であるが、ほかにもいろいろ内容豊かに展開されている。
もうすぐ、またもう一度、この二作品を読み直すつもりである。わたしは、大体、彼女の作品は、2回は読み返しているようだ。あるムードを味わい、確認するために、何度も読み返したいと思う。哲学書やParapsychologyの読書に疲れたとき、彼女の本は私には、ほんとうに砂漠のオアシスのように、心やすらぐ世界である。
村田茂太郎 2014年3月31日
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