「心霊現象の科学」をめぐってーその78“Reincarnation-Missing
Link in Christianity”by Elizabeth Clare
Prophetを読む
私は宗教というものに疎く、宗教的なものはできるだけ避けるようにして生きてきた。もちろん基本的な書物は読んできて、自分では“道元”が一番好きだが、私自身は宗教的な人間ではない。従って、キリスト教の歴史についても、詳しくは知らない。ただ、世界史で習った皮相な知識程度である。ただし、わたしは聖書に関しては、新旧の日本語訳はもっていて、大学時代にかじったことがある。アメリカにきてからも、日本語訳のほかに英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語の新約聖書を手に入れた。そして大学時代に古本屋で手に入れたギリシャ語新約聖書をもっているが、もっているというだけで、読みこなすほどの語学力には欠ける。新約聖書の原典はギリシャ語で書かれていることを知らない人が多い。イエス・キリストその他、当時の人たちはギリシャ語をしゃべっていた(ヘブライ語のほかに)わけで、それはマケドニアのアレキサンダー大王がインド付近まで征服して、エジプトにアレキサンドリアという街をひらいたことがおおいに影響していたわけで、ギリシャ語はギリシャ近辺だけでなく、エジプトを含む中近東の公用語になっていたわけであった。
このブログでもすでに展開したが(「心霊現象の科学」その34 Arthur Guirdham 2012年12月)、中世におきた、いわゆる十字軍の動きの中で、ひとつだけ異例なCrusadeがあった。アルビジョワ十字軍というものである。
これは、教会が“異端”とみなしたキリスト教の一派を、まったく残虐にも殲滅するためにイノケンチウス3世(このとき法王権力は世界史上最大であった)がおこしたもので、何万人という敬虔なキリスト教徒全員を焼き殺した(戦死者以外の無実な住民全部を殺戮)悲惨な事実であった。これは私見では、規模こそ違え、多くのユダヤ人を虐殺したナチスの暴虐、スターリンの粛清とならぶものである。これは人間という奇妙な生物は自己の権力を維持拡大するためには、いろいろな名目を設けて残虐な行為をなんでもするという、権力におぼれた人間のもつ恐ろしさを実証した事件であった。そして、同時に、自分たちだけが正しいとする宗教の持つおそるべき残忍さが明白に露呈された事件であった。しかも、それが同じキリスト教内部で起きたところに、宗教が持つパワーの恐ろしさがあらわれている。
本来、敬虔で、人類を浄化し、苦悩から救うために生まれたはずの宗教が、より敬虔で、おだやかで、模範的な、同じキリスト教の一派(Catharistカタリ派)を抹殺しようとし、ほとんど成功した事件であった。それは12世紀末から13世紀終わりに至る100年間に起きたキリスト教史上の最悪、最大の事件のといえる。1209年から1229年と年表ではでているが、その前後もカタリ派一掃の動きがあったことは、すでに私のブログで紹介したとおりである。イギリス精神分析医Arthur Guirdhamは、Brian Weiss M.D.同様、自分のところにおくられてきた女性のNightmareを精神療法、Hypnosisで解明しようとして、彼女がアルビジョワ十字軍の犠牲となって焼き殺された人間のReincarnationであるとわかり、同時に、自分もその主要なメンバーであったことを発見したのであった。“Cathars and Reincarnation”. Arthur Guirdham.
Reincarnationの問題を扱おうとすると、どうしてもこのアルビジョワ十字軍の問題が浮かび上がってくる。基本的にはキリストをどうとらえるか、はじめから完成した神の子であったのか、訓練・修養で神に匹敵する地位にあがったのか、転生があるのかがこのキリスト教内部でのわかれ目であった。結果的には教会は自分の存立のためには、キリストを神として扱い、したがって、普通の人間はキリストのようにはなれず、教会の助けを得なければ救われない、そして転生はないという線で教会を確立していった。そのために、より寛大で敬虔で熱心なキリスト教徒であったCathar派の人々を全滅させたのであった。
では、その彼らが異端征伐にむかった根拠はどこからうまれたのか。それがこのElizabeth Clare Prophetの本が解明しようとしたことであり、この本はわかりやすく、みごとに整理して、歴史的にキリスト教と教会が成立していく動きを、イエス・キリスト生誕以前にさかのぼって展開したもので、名著といえるすばらしい本であった。
現在、教会(オーソドックス)のクリスチャンは、転生Reincarnationはないと教えられて育ち、そのため、自分が転生らしき過去の記憶を思い出したりすると、教会で告白するわけにも行かず、自分は異常ではないかと一人苦しむことが多かった。
なぜ、教会のキリスト教では転生Reincarnationが禁じられているのか。
このElizabethの本によると、結論から言うと、イエス・キリストは転生Reincarnationがあると信じていた、そしてそれは新約聖書を読めば読み取れることである。ただ、この聖書成立過程でいろいろ原始キリスト教からの改ざんがおこなわれ、教会は自分の都合のよいように、かえていったということになる。Dead Sea Scrollが1945年に発見され話題を呼び(Nag Hammadi 1977年英訳完成)、聖書学に新しい展開を見たが、この死海文書は異端派とみなされるようになったOrigen, Arius派が自分たちの秘教を守るために隠したものが発見された、つまり、無事隠しおおせていたということであった。教会派はオリゲネスやアリウス派など教会にとって危険な宗派を全部抹殺しようとし、成功したわけであるが、丁度隠れキリシタン同様、地下にもぐったということでもあった。
皇帝ユスチニアヌス(紀元483-565)によって、異端派討伐が宣言されてからでも、Origen, Arius派は、地方で健在であった。FranceのLanguedoc( Avignonet, Montsegur, Toulouse, Carcasonneなど)で勢力を持ったこのArius派=Cathar派が拡大していくのをおそれたイノケンチウス3世(紀元1160-1216)が、十字軍の一環として、異端討伐を宣言し、フランス王を誘って、実行した。
キリスト教のパワーを利用して自分の支配権を確立・強化しようとしていたコンスタンチン大帝(紀元283ごろー337)は325年二ケア会議(Nikaia, Nicaea Creed)を開いて、自分も臨席し、出席した300人を超えるBishopが、キリスト教というよりも、教会の進路をきめる方向を指示した。それはイエス・キリストの発言に見られるReincarnation的なものを否定し、教会は転生を認めない、キリストは神であり、はじめから神の子として誕生したもので、処女懐胎伝説がそれを証明し、人間は神にはなれず、Baptismによって救われるだけであるという方向を決定したキリスト教会史上最大の事件であった。これによって、人間は教会で洗礼されないと死後、救われないという形式がかたまったわけであった。宗派的にはアリウス派を異端とし、アタナシウス派を正統としたわけで、ここから異端征伐の思想がうまれた。アリウス派はキリストを神と同一ではなく、神によって作られたものであると説くことによって三位一体説を否定し、転生を説いた。そして、普通の人間も修業を積めばキリストと同じようになれ、死後、神と一体になれると説いた。それは教会の必要を無視するもので、教会派は自己の存立の基盤がゆらぐのを覚えたはずである。
この325年の二ケア会議でキリストそのものと転生に関して教会が決定的な、自分勝手な結論を生み出すに至ったもとにあたるのが、オリゲネス(Origen)(紀元185-254ごろ)派に対抗した教会であった。オリゲネスはイエス・キリストの秘教をうけつぎ、転生をくりかえすことによって、人間は浄化され、最後には神に至るという思想を展開して、聖書のなぞ(なぜ貧富貴賎、幸不幸、奇形の差があるのか、など)をそれなりに解明したのであるが、教会派は原罪(アダムがリンゴを食べて、すべての悪が始まった)があり、したがって、アダム以降に生まれた人間すべてが、生まれたときから(ベイビーを含めて)罪をもった哀れな存在で、教会で洗礼を受けてはじめて救われるとした。
この転生をめぐっては熾烈な闘争がおこなわれた。プラトン以来、転生のアイデアはめずらしいことではなく、一方、ユダヤ教もカバラなど秘教の中で転生をといていた。新約聖書福音書でもイエス・キリストは転生らしきことをしゃべっていた。キリスト自身ユダヤ人でユダヤ教は身についていたわけで、そのほかにギリシャ哲学(わたしが聖書を読んでいて感じたことは聖書へのギリシャ哲学の影響ということであった)の影響を受け、このElizabethの話では、イエス・キリストの個人史で不明の年(キリストの教祖としての活躍は30歳近くになって突如あらわれて、34歳くらいで死刑になるまでの、わずか数年である)は、どうやらインドまで宗教的探求の旅、巡礼をおこない、Buddha仏教の影響、Tibet、Hinduなどの影響を受け。どうみてもReincarnationの考えにはなじんでいたということになるらしい。いわば、パレスチナ、イスラエルにもどったのは、魂の遍歴を経て、悟りの境地に達してからであったに違いない。
この教会派が力を持つのに最大の影響力を発揮したのが、Saint Augustineといわれているアウグスチヌスの発言であった。彼はギリシャ語を読まず、ラテン語訳の聖書をもとに、自分の考えを展開したわけで、そのなかでReincarnationを否定し、キリストを神の子としてまつりあげ、人間はキリストのようにはなれない、転生も無い、したがって教会で洗礼をうけるのが唯一救われる道であると説いたわけである。ここで、教会が絶対権力を持つに至る道が開かれ、初期、原始キリスト教の持つ純粋な宗教心はなくなっていく堕落の道が開かれたのであった。聖アウグスチヌスなどといわれているが、彼の言動から生まれた結果から判断すると、アルビジョワ十字軍などは明らかにアウグスチヌスの言動の結果であるとみなせるようである。
ともかく、この本は、イエス・キリストの本来のすがたを再現したものであるといえる。興味のある人は、詳しくは、この本を読まれるように。まじめな、すばらしい本であった。不思議なLast Nameをもつ著者は1939-2009ということで、70歳で亡くなったようである。たくさんの本は30ヶ国語に訳されているとのことであるから、その筋では有名なひとなのであろう。私はたまたまReincarnation問題で彼女の本を読む気になっただけであったが、彼女の本は読むに値すると判断し、最近、また数冊オーダーをした。宗教(キリスト教史)やサイキック、そしてHealingなどにくわしい人のようである。ともかく、この本「Reincarnation-Missing
Link in Christianity」は本当にVery goodであった。目が覚めるような、鮮やかな展開で、Reincarnationとキリスト教の関係を知りたい人には必読書といえる。
今のオーソドックスの教会は本来のキリストが志向した宗教ではないということになる。日本では内村鑑三が教会の堕落を目撃して、教会宗教を否定して、「無教会の教会」というキリスト教派をつくったが、まあ、日本キリスト教の方向としては正しかったといえるであろう。聖書を熟読すればよいというあり方である。
「Reincarnation-Missing Link in
Christianity」Elizabeth Clare Prophet 約400ページ
ISBN: 978-0-922729-27-2 1997
村田茂太郎 2014年2月12日
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