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5/04/2013

Kristin Hannah “Home Front”(2012)を読む


Kristin Hannah “Home Front”(2012)を読む

 
 
 これはすばらしい本である。ほとんど完璧といえるほど、見事な設定であり、バランスがとれて、内容が豊かに展開されている。

 わたしはこの本を読む前は、最初はこの物語の主人公のひとり、夫Michael ZarkadesMilitary軍隊に対する見方と同じような感じ方をしていたが、この本を読みすすむうちに、この主人公の男性がさまざまな面で、ものすごく成長していくにつれ、わたしも、たとえばIraqイラクやアフガニスタンでのアメリカの兵士の駐在がいかに大変かということを理解できるようになった。

 この物語は夫婦二人が主人公で、直接の主人公である妻Joleneがアメリカ本土でのGuardとしてのBlack Hawk PilotReserveの状態から、イラクへDeploy出動ときまり、イラクでのヘリコプターのパイロットとして、同じ仲間の女性と戦場で救援活動など危険な夜間飛行を連日おこない、そして、ある日、ヘリコプターが狙撃されて墜落し、傷ついて帰国し、今までの生活とは全く違う環境にうまく順応できるまでの苦労譚であると同時に、Defense Lawyer被告弁護人をつとめる弁護士の夫が、妻がいなくなったあと、はじめて妻の苦労や子育ての苦労(11歳と4歳の娘)、気が付かなくなっていた妻への愛情を感じ始め、苦労して成長し、妻を再発見し、妻にひどい言葉を発した自分をこころから反省し、Second Chanceを願い、そして、最後には二人の愛情を回復するという話である。

 この物語の中での夫の成長ぶりがすばらしい。そして、同時に、話は、かれが弁護士として、ある男Keith Kellerが銃でその妻の頭を撃って殺し、第一級殺人罪にとわれているケースの弁護を頼まれ、妻のいない間の子育てに苦労しながら、ケースを深く追っていくうちに、その男が、イラクに二度出動し、外面的には無傷だが、内面的には傷ついてかえってきて、自分から助けを求めているのに、軍隊関係の病院は彼の救いをもとめる声を無視したとわかる。

 そして、専門の精神科医と話しているうちに、自分の妻が大変な戦場にいると気が付く。そして、この夫の殺人犯の弁護の話が、直接に戦場で傷ついた妻の、帰宅後の反応と関係してくることがわかる。夫が、自分はもう、おまえを愛していない  (I don’t love you anymore.) と言ったため、ときどき妻から子供あてに届くメッセージはイラクの戦場の悲惨さは隠して、バラ色の話ばかり送ってきて、写真も同様である。(事実は、ついた早々、爆弾が近くで破裂するのを体験し、あるときは三機のヘリコプターで救援活動に向かう途中、屋根の上からの機関銃掃射で、真ん中をとんでいたヘリコプターが墜落し、全員死亡という体験もする。)精神科医の話を聞いて、妻は子供たちを心配させないようにして嘘を報告しているのだと知る。

 夫は、妻が戦場にDeployされるとわかる前に、もう自分はおまえを愛していないと告白する。それは、11歳ほどの娘も耳にしてしまった。夫は別に愛人を作ったわけではないが、妻の在り方が気に入らない。

 妻Joleneは親に見捨てられて育ち、18歳になるまえに親を交通事故で亡くす。金もなく、頼る人もなく、なにもないということで、彼女は軍隊に志願し、ヘリコプター・パイロットになる。だれも頼らず、だれも信用していないが、その軍隊で最大の親友Tamiをみつけ、二人でヘリコプターを操縦しながら20年過ごしてきた。軍隊育ちのせいで、Joleneはたくましい精神力を持ち、絶対に自分の弱みを人にみせず、その友人Tami以外には特に心の秘密を打ち明けるような繊細さを見せない(持ってはいるが外に見せない)妻として、12年間過ごしてきたので、すべてにコントロールの効いた妻のありかた、やり方にコンプレックスを抱き始めていた夫は、Law Farm弁護士事務所の先輩であり、同僚であり、パートナーの一人である父親が亡くなったあとのショックで、妻のやり方がことごとく気に入らなくなってしまって、最後に、その言葉を発したのであった。

 妻は、夫がもう信用できないと感じながら戦場に向かい、傷つき、孤独で、親友のTamiComa意識不明にあって、だれも頼るものがないという状態に陥った。

 夫の母親Milaが妻のJoleneを理解し、ヘルプし、息子を批判し、指導していたが、肝心の夫が頼れないとわかっているため、脚を亡くして帰国しても、夫に寄りすがる気持ちはない。自分が操縦していたヘリコプターが、機関銃で下から撃たれて墜落して、若者が死んだり、親友Tamiが意識不明の状態のまま、そして自分は足も手も顔も負傷して、片足を切断する羽目になり、そういう苦境の中で、だれも頼れないという苦しみをどうすることもできない。子供たちは、待っていた母親が帰ってくる、かえってきたと喜んでいたが、どうも以前の母親ではなく、ことごとに怒りを発する別人である。今では、精神科医との話のおかげで、そして弁護人を引き受けている殺人犯との話のおかげで、夫は妻の精神的状況を理解し、妻が自分を信じてくれないのを嘆きながら、なんとかヘルプしようと苦労する。

 殺人犯の裁判になったとき、妻も呼んで、自分の弁護演説をきいてもらう。Joleneは話がイラクの戦争を体験した25歳ほどの若者の話なので、夫の演説をききながら、今までの、Military関係を無視してきた夫と違って、イラクなど戦場に出ている兵士をHeroとよび、彼らが帰国してもどれだけ苦労しているかを説明するのを聞いて、おどろく。

 とはいっても、すべてがすぐにうまく調和するわけではなく、夜になるとヘリコプターが襲われ墜落する恐ろしい夢をみて、悲鳴を上げ、子供たちを心配させ、自分でも知らないで夫に殴り掛かったりしていたことを知る。

 そして、片足を亡くしたが、なんとか義足であるけるようになり、親友のTamiが死んだショックも克服して、夫の愛が本物であるのを確認し、勇気をもって、第二の人生を歩き始めるわけである。

 PTSD (Post-traumatic stress disorder) を理由とする弁護側の意図的殺人否定論はそれなりに効果を発し、Jury陪審判決は第一級殺人(意図的殺人)に関しては無罪を判決、ただ第二級殺人としては有罪となる。完全に無罪にならなかったわけで、Michaelは控訴しようと被告本人Keithと話すが、彼は殺人の意図がなかったと認められただけで、自分は満足だ、たとえPTSDでも、我知らず妻を殺害したのは事実なのだから、無罪を求めて控訴する意志はないと表明する。一応、これで彼の弁護士としての役割は果たせ、この判決は全米の、これに似た裁判の先例となるだろうということで、弁護士Michaelも満足する。

 妻との関係はまだ前途多難だが、夫が以前のように理解力と愛情をもって第二のスタートを始めようとしているのを知って、Joleneは、やっと、心を許し、子供たちとも、その壊れかけた関係の修復を図る努力をする余裕を見出すに至る。

 ここには、軍隊に属した人間を規制するきびしい制度と、それを認めて、献身的にその方向で努力する人間たちの存在、そうした人々によって支えられているアメリカ本土の安全といったことに対する真摯な考察がこのストーリの裏からあらわれてくる。

 まさに、Militaryに属するということは、命を投げ出しての働きであり、それは自分ひとりの運命だけでなく、家族・友人すべてを含んだかたちで、展開していくのだということがよく理解できる、まことに見事な筋立てであり、その細部にまでよく行き届いた展開ぶりであった。完璧に近い小説であった。

この本は、つい最近、購入した新刊書3冊の一つで、すでに「Winter Garden」については、このブログで紹介した。最近、わたしがロサンジェルスの図書館で借りて読んだ彼女の本8冊を新刊でAmazon.comにオーダーした。彼女の現代を舞台とする小説は全部で15冊(2013年の新刊 Fly Awayを含めると)あるが、わたしはこのFly Awayを除く全部14冊を一度は読み、二度読んだものもあり、これからも、時々読み返すつもりでいる。彼女の物語はこころを明るく豊かにしてくれるので、本当にわたしは大好きである。ある本は、まだ3月4月に読み終わったばかりだが、本が届けば、すぐに読み直したいと思う。これは丁度、私がThomas Mannの名作Magic Mountain「魔の山」のある場面を何度も読み返したのと同じような気分である。いい本は、やはり手元に置いて、くりかえし親しみたい。

先日、Costcoで彼女の本を1冊見つけたので、図書館で読んだばかりだったが、購入しようとカートにいれておいたら、ある年配の女性がその本を見つけ、Oh Kristin Hannah!---She is very good. Her books are all very good.と私に声をかけたので、Yes, I agree. I love her books. Everything is good. と返事をした。その日はおかげで、気分が良かった。同じTasteのひとがいるのがわかったわけで、私だけの片思いではなかったわけだ。

村田茂太郎 2013年5月4日

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